[O-DM-02-1] 糖尿病性ニューロパチーは錐体路を標的にする
キーワード:糖尿病, 錐体路, 糖尿病性ニューロパチー
【はじめに,目的】
近年,我々は糖尿病ラットの運動ニューロンが減少することを発見し,中枢神経も糖尿病性ニューロパチー(以下,DN)の標的になることを示した。末梢神経では軸索の長い神経細胞ほどDNによる障害を受けやすいことが知られているが,大脳皮質から脊髄に投射する錐体路細胞は我々の身体において最も長い軸索を有する神経細胞であり,DNの標的となり易い細胞であると予想できる。糖尿病に起因する錐体路障害が存在するのであれば,糖尿病患者の運動障害を理解するための重要な知見になると考え,糖尿病モデルラットを対象に錐体路障害が生じるのか検討することとした。
【方法】
実験にはWistar系ラット24匹(雄,13週齢)を用いた。12匹のラットにはStreptozotocinを腹腔内投与し,1型糖尿病を発症させた。残りの12匹には生理食塩水のみを腹腔内投与し,対照群とした。それぞれのラットは20週間の飼育期間の後に,ハロタン吸入麻酔下にて第5頸髄(各群6匹)もしくは第5腰髄(各群6匹)に2μlの10%Dextran-TexasRed溶液を注入した。術後,ラットを回復させ3週間の生存期間を与えた後に,深麻酔下にて左心室から4%パラフォルムアルデヒドを灌流・固定し,大脳を摘出して,50μmの厚さの連続切片を作成した。連続切片は蛍光顕微鏡で観察し,100μm毎に逆行性標識された錐体路細胞の数を計測し,切片毎に含まれる細胞の平均数を測定した。
【結果】
頸髄に投射する錐体路細胞は大脳皮質運動野の上肢領域,腰髄に投射するものは下肢領域に分布していた。頸髄に投射する錐体路細胞数は対照群で約300個/切片,糖尿病群で約280個/切片であり両群間に有意差はなかった。しかし,腰髄に投射する錐体路細胞数は対照群の約230個/切片に対し,糖尿病群は約150個/切片と3割程度,減少していた(P<0.01)。
【結論】
本研究は糖尿病に起因する錐体路障害という未知の糖尿病合併症の存在を報告するものである。細胞の減少は腰髄に投射をする錐体路細胞に限局して観察されたが,これはDNが長い軸索を有する神経細胞を標的にするためであると考えられる。また,錐体路細胞の減少は3割程度に留まっているため,錐体路症状は脳卒中患者で観察されるような痙性麻痺ではなく,筋力低下として出現することが予想される。事実,DN患者には下肢を中心とした筋力低下が生じ,特に膝関節周囲では末梢神経障害では説明が困難な筋萎縮を伴わない筋力低下が生じることが知られているが,この原因を下肢の随意運動を制御する錐体路細胞の選択的減少による筋力低下であると考えると合理的に説明が可能である。今後は錐体路障害についてさらなる解析を加え,糖尿病性の錐体路障害と運動障害との関連を明らかにしていきたい。
近年,我々は糖尿病ラットの運動ニューロンが減少することを発見し,中枢神経も糖尿病性ニューロパチー(以下,DN)の標的になることを示した。末梢神経では軸索の長い神経細胞ほどDNによる障害を受けやすいことが知られているが,大脳皮質から脊髄に投射する錐体路細胞は我々の身体において最も長い軸索を有する神経細胞であり,DNの標的となり易い細胞であると予想できる。糖尿病に起因する錐体路障害が存在するのであれば,糖尿病患者の運動障害を理解するための重要な知見になると考え,糖尿病モデルラットを対象に錐体路障害が生じるのか検討することとした。
【方法】
実験にはWistar系ラット24匹(雄,13週齢)を用いた。12匹のラットにはStreptozotocinを腹腔内投与し,1型糖尿病を発症させた。残りの12匹には生理食塩水のみを腹腔内投与し,対照群とした。それぞれのラットは20週間の飼育期間の後に,ハロタン吸入麻酔下にて第5頸髄(各群6匹)もしくは第5腰髄(各群6匹)に2μlの10%Dextran-TexasRed溶液を注入した。術後,ラットを回復させ3週間の生存期間を与えた後に,深麻酔下にて左心室から4%パラフォルムアルデヒドを灌流・固定し,大脳を摘出して,50μmの厚さの連続切片を作成した。連続切片は蛍光顕微鏡で観察し,100μm毎に逆行性標識された錐体路細胞の数を計測し,切片毎に含まれる細胞の平均数を測定した。
【結果】
頸髄に投射する錐体路細胞は大脳皮質運動野の上肢領域,腰髄に投射するものは下肢領域に分布していた。頸髄に投射する錐体路細胞数は対照群で約300個/切片,糖尿病群で約280個/切片であり両群間に有意差はなかった。しかし,腰髄に投射する錐体路細胞数は対照群の約230個/切片に対し,糖尿病群は約150個/切片と3割程度,減少していた(P<0.01)。
【結論】
本研究は糖尿病に起因する錐体路障害という未知の糖尿病合併症の存在を報告するものである。細胞の減少は腰髄に投射をする錐体路細胞に限局して観察されたが,これはDNが長い軸索を有する神経細胞を標的にするためであると考えられる。また,錐体路細胞の減少は3割程度に留まっているため,錐体路症状は脳卒中患者で観察されるような痙性麻痺ではなく,筋力低下として出現することが予想される。事実,DN患者には下肢を中心とした筋力低下が生じ,特に膝関節周囲では末梢神経障害では説明が困難な筋萎縮を伴わない筋力低下が生じることが知られているが,この原因を下肢の随意運動を制御する錐体路細胞の選択的減少による筋力低下であると考えると合理的に説明が可能である。今後は錐体路障害についてさらなる解析を加え,糖尿病性の錐体路障害と運動障害との関連を明らかにしていきたい。