[O-DM-02-2] 遅筋を支配する運動ニューロンは糖尿病に脆弱性を持つ
キーワード:糖尿病, 運動ニューロン, 遅筋
【はじめに,目的】
糖尿病の筋障害は主に速筋に生じ,その原因は筋の代謝障害などの筋実質の異常であることが知られている。しかし,最近,我々は糖尿病の筋の収縮特性に関する詳細な解析を行い,速筋に筋張力の減少が生じる以外にも,遅筋に収縮弛緩時間の延長が生じることを発見し,筋のタイプによって障害様式が異なることを明らかにした。しかし,遅筋における収縮特性の変化が生じる機序は不明であるため,筋実質に加え,筋の機能に大きな影響を及ぼす因子である運動ニューロンの障害について解析を加えた。
【方法】
実験にはWistarラットの雄16匹を用いた。8匹には13週齢でStreptozotocinを腹腔内投与し,1型糖尿病を発症させた(糖尿病群)。残りの8匹には生理食塩水のみを腹腔内投与した(対照群)。各群のラットはその後12週間通常飼育し,実験に用いた。各群の半数は内側腓腹筋を支配する神経枝,残りの半数はヒラメ筋を支配する神経枝をDextran-Texas Red溶液に1時間暴露し,術創を閉じた。2週間の生存期間の後,深麻酔下にて左心室から4%パラフォルムアルデヒド溶液にて灌流固定を行い,腰髄以下の脊髄を摘出した。次に,脊髄から80μmの連続切片を作成し,蛍光顕微鏡下にて運動ニューロンを観察後,Image Jを用いて運動ニューロン数と細胞体の面積を計測した。
【結果】
内側腓腹筋を支配する運動ニューロン数は対照群で約123個であり,糖尿病群でも対照群とほぼ同様の数値が得られた。一方,ヒラメ筋を支配する運動ニューロン数は対照群で約60個であったのに対し,糖尿病群では約37個と4割程度減少していた(P<0.05)。運動ニューロンの細胞体面積は,両筋を支配する運動ニューロンともに対照群と糖尿病群で有意差は認められなかった。
【結論】
本研究結果から,糖尿病では速筋を支配する運動ニューロンに比べ,遅筋を支配する運動ニューロンが障害を受けやすく,運動ニューロンの減少が生じる時期にずれがあることがわかった。先に述べたように糖尿病による筋障害は速筋と遅筋でその病態が異なり,速筋には筋張力減少,遅筋には収縮弛緩時間の延長が生じることが知られていたが,その理由は不明であった。しかし,遅筋を支配する運動ニューロンが糖尿病の初期に脱落し,それによって収縮弛緩時間の延長が生じているのであれば,筋の代謝障害により筋力低下を起こす速筋とは病態が異なることを合理的に説明できる。実際,収縮弛緩時間の延長は除神経された筋が残存する運動神経によって再神経支配された際の特徴の一つでもあるし,糖尿病動物では再神経支配が活発に行われていることも知られている。本研究結果は,糖尿病によって生じる筋障害の病態の一部を説明し得る可能性があるが,筋障害の病態は糖尿病の病期によって変化することも示唆されているため,今後はより長い病期でも運動ニューロンの解析を行っていく必要があると考えている。
糖尿病の筋障害は主に速筋に生じ,その原因は筋の代謝障害などの筋実質の異常であることが知られている。しかし,最近,我々は糖尿病の筋の収縮特性に関する詳細な解析を行い,速筋に筋張力の減少が生じる以外にも,遅筋に収縮弛緩時間の延長が生じることを発見し,筋のタイプによって障害様式が異なることを明らかにした。しかし,遅筋における収縮特性の変化が生じる機序は不明であるため,筋実質に加え,筋の機能に大きな影響を及ぼす因子である運動ニューロンの障害について解析を加えた。
【方法】
実験にはWistarラットの雄16匹を用いた。8匹には13週齢でStreptozotocinを腹腔内投与し,1型糖尿病を発症させた(糖尿病群)。残りの8匹には生理食塩水のみを腹腔内投与した(対照群)。各群のラットはその後12週間通常飼育し,実験に用いた。各群の半数は内側腓腹筋を支配する神経枝,残りの半数はヒラメ筋を支配する神経枝をDextran-Texas Red溶液に1時間暴露し,術創を閉じた。2週間の生存期間の後,深麻酔下にて左心室から4%パラフォルムアルデヒド溶液にて灌流固定を行い,腰髄以下の脊髄を摘出した。次に,脊髄から80μmの連続切片を作成し,蛍光顕微鏡下にて運動ニューロンを観察後,Image Jを用いて運動ニューロン数と細胞体の面積を計測した。
【結果】
内側腓腹筋を支配する運動ニューロン数は対照群で約123個であり,糖尿病群でも対照群とほぼ同様の数値が得られた。一方,ヒラメ筋を支配する運動ニューロン数は対照群で約60個であったのに対し,糖尿病群では約37個と4割程度減少していた(P<0.05)。運動ニューロンの細胞体面積は,両筋を支配する運動ニューロンともに対照群と糖尿病群で有意差は認められなかった。
【結論】
本研究結果から,糖尿病では速筋を支配する運動ニューロンに比べ,遅筋を支配する運動ニューロンが障害を受けやすく,運動ニューロンの減少が生じる時期にずれがあることがわかった。先に述べたように糖尿病による筋障害は速筋と遅筋でその病態が異なり,速筋には筋張力減少,遅筋には収縮弛緩時間の延長が生じることが知られていたが,その理由は不明であった。しかし,遅筋を支配する運動ニューロンが糖尿病の初期に脱落し,それによって収縮弛緩時間の延長が生じているのであれば,筋の代謝障害により筋力低下を起こす速筋とは病態が異なることを合理的に説明できる。実際,収縮弛緩時間の延長は除神経された筋が残存する運動神経によって再神経支配された際の特徴の一つでもあるし,糖尿病動物では再神経支配が活発に行われていることも知られている。本研究結果は,糖尿病によって生じる筋障害の病態の一部を説明し得る可能性があるが,筋障害の病態は糖尿病の病期によって変化することも示唆されているため,今後はより長い病期でも運動ニューロンの解析を行っていく必要があると考えている。