[O-DM-03-1] 保存療法を行う血液がん患者の悪液質が身体・精神機能におよぼす影響
Keywords:がん, 悪液質, 身体機能
【はじめに,目的】
悪液質は,がん患者の約30~80%に合併する骨格筋量の減少を特徴とした複合的代謝異常症候群である。特に肺がんや消化器がんにおいては発症頻度が高く,生命予後の悪化や身体・精神機能の低下に直接的に影響すると報告されている。一方,血液がん患者においては悪液質の発症頻度に関するデータが乏しく,それが身体・精神機能にどのように影響しているのか明らかになっていない。そこで本研究では,この点を明らかにする目的で保存療法を行う血液がん患者を対象に観察研究を実施した。
【方法】
対象は,2012年7月~2015年10月の期間で長崎大学病院に入院し,リハビリテーション(以下,リハビリ)依頼があった保存療法を行う血液がん患者60名(女性26名,男性34名,平均年齢67.8±9.0歳)である。基本情報として年齢,体重の他に生化学的データのCRP値,Alb値をカルテから得た。そして,リハビリ開始時に,握力,膝伸展筋力,Performance Status(PS),機能的自立度(FIM),不安・抑うつ(HADS),倦怠感(CFS)を評価した。解析では,CRP値とAlb値を基準に悪液質をステージ分類する三木のGlasgow Prognostic Score(以下,GPS)を用い,対象者を非悪液質群(GPS1:正常,GPS2:低栄養)と悪液質群(GPS3:前悪液質,GPS4:悪液質)の2群に振り分け,各評価項目を比較検討した。統計解析には,対応のないt検定を用い,有意水準は5%とした。
【結果】
GPSに従って対象者を群分けした結果,非悪液質群は32名(GPS1:16名,GPS2:16名),悪液質群は28名(GPS3:6名,GPS4:22名)であり,全体の46.7%が悪液質または前悪液質の状態にあった。次に,この2群間で各評価項目を比較すると,悪液質群の握力,膝伸展筋力,PS,FIMはすべて非悪液質群に比べ有意に低値を示した。一方,不安・抑うつ,倦怠感は2群ともカットオフ値を上回る高値を示していたが,2群間に有意差は認められなかった。
【結論】
悪液質が強いがん患者では,異化作用が亢進しているため高負荷の筋力トレーニングは筋萎縮を助長させる可能性があると指摘されている。本研究の結果から,血液がん患者の半数近くは悪液質の状態にあり,その影響は実際の握力や膝伸展筋力,ADL能力の低下に反映していることが明らかとなった。つまり,保存療法を行う血液がん患者においても,悪液質の有無を考慮したリハビリプログラムを立案することが重要であると推察される。一方,消化器や肺の固形がんでは,悪液質が倦怠感や不安・抑うつにも影響すると報告されているが,今回はその傾向は認められなかった。この結果は,保存療法を行う血液がん患者の倦怠感や不安・抑うつには悪液質以外の要因が強く影響している可能性を示唆しており,この点を明らかにすることが今後の課題である。
悪液質は,がん患者の約30~80%に合併する骨格筋量の減少を特徴とした複合的代謝異常症候群である。特に肺がんや消化器がんにおいては発症頻度が高く,生命予後の悪化や身体・精神機能の低下に直接的に影響すると報告されている。一方,血液がん患者においては悪液質の発症頻度に関するデータが乏しく,それが身体・精神機能にどのように影響しているのか明らかになっていない。そこで本研究では,この点を明らかにする目的で保存療法を行う血液がん患者を対象に観察研究を実施した。
【方法】
対象は,2012年7月~2015年10月の期間で長崎大学病院に入院し,リハビリテーション(以下,リハビリ)依頼があった保存療法を行う血液がん患者60名(女性26名,男性34名,平均年齢67.8±9.0歳)である。基本情報として年齢,体重の他に生化学的データのCRP値,Alb値をカルテから得た。そして,リハビリ開始時に,握力,膝伸展筋力,Performance Status(PS),機能的自立度(FIM),不安・抑うつ(HADS),倦怠感(CFS)を評価した。解析では,CRP値とAlb値を基準に悪液質をステージ分類する三木のGlasgow Prognostic Score(以下,GPS)を用い,対象者を非悪液質群(GPS1:正常,GPS2:低栄養)と悪液質群(GPS3:前悪液質,GPS4:悪液質)の2群に振り分け,各評価項目を比較検討した。統計解析には,対応のないt検定を用い,有意水準は5%とした。
【結果】
GPSに従って対象者を群分けした結果,非悪液質群は32名(GPS1:16名,GPS2:16名),悪液質群は28名(GPS3:6名,GPS4:22名)であり,全体の46.7%が悪液質または前悪液質の状態にあった。次に,この2群間で各評価項目を比較すると,悪液質群の握力,膝伸展筋力,PS,FIMはすべて非悪液質群に比べ有意に低値を示した。一方,不安・抑うつ,倦怠感は2群ともカットオフ値を上回る高値を示していたが,2群間に有意差は認められなかった。
【結論】
悪液質が強いがん患者では,異化作用が亢進しているため高負荷の筋力トレーニングは筋萎縮を助長させる可能性があると指摘されている。本研究の結果から,血液がん患者の半数近くは悪液質の状態にあり,その影響は実際の握力や膝伸展筋力,ADL能力の低下に反映していることが明らかとなった。つまり,保存療法を行う血液がん患者においても,悪液質の有無を考慮したリハビリプログラムを立案することが重要であると推察される。一方,消化器や肺の固形がんでは,悪液質が倦怠感や不安・抑うつにも影響すると報告されているが,今回はその傾向は認められなかった。この結果は,保存療法を行う血液がん患者の倦怠感や不安・抑うつには悪液質以外の要因が強く影響している可能性を示唆しており,この点を明らかにすることが今後の課題である。