第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本糖尿病理学療法学会 一般演題口述
(糖尿病)03

2016年5月27日(金) 18:20 〜 19:20 第6会場 (札幌コンベンションセンター 2階 小ホール)

座長:小山昭人(市立札幌病院 リハビリテーション科), 田仲勝一(香川大学医学部附属病院 リハビリテーション部)

[O-DM-03-6] 客観的ツールで評価した化学療法誘発性末梢神経障害の経時的変化

その障害様式の調査

斎藤貴1, 岡村篤夫4, 井上順一朗2, 牧浦大祐2, 土井久容3, 向原徹5, 松岡広5, 薬師神公和5, 澤龍一1, 杉本大貴1, 中村凌1, 村田峻輔1, 小野玲1 (1.神戸大学大学院保健学研究科, 2.神戸大学医学部附属病院リハビリテーション部, 3.神戸大学医学部附属病院看護部, 4.独立行政法人加古川市民病院機構加古川西市民病院腫瘍・血液内科, 5.神戸大学医学部附属病院腫瘍・血液内科)

キーワード:化学療法誘発性末梢神経障害, 深部感覚, モノフィラメント

【はじめに,目的】

近年がん医療においては疾病の早期発見,治療法の発展により生存率が向上している一方で,治療による副作用が問題視されている。化学療法の副作用の1つに化学療法誘発性末梢神経障害(chemotherapy-induced peripheral neuropathy,以下,CIPN)があり,その好発部位から「手袋・靴下型」と称されている。リハビリテーション実施場面においても,化学療法実施中の患者にはしばしば見られる症状である。CIPNは多様な感覚器の障害様式を呈するが,その評価は医療者による主観的な評価が中心であり,どのような感覚器の障害様式なのかはについて詳細な評価はなされていない。本研究の目的は感覚検査の客観的評価ツール用い,CIPNを縦断的に調査し,その障害様式を明らかにすることである。


【方法】

本研究は前向きコホート研究であり,任意の化学療法実施日をベースラインとし,フォローアップ期間は3ヶ月とした。本研究の対象者は,2015年2月から7月までの期間内に,神戸大学医学部附属病院の通院治療室にて,副作用としてCIPNが出現する化学療法を受けているがん患者35名であり,脊椎疾患を有する者,フォロー不可能であった者,欠損値があった者を除く18名(63.7±11.3歳,女性11名)を解析対象者とした。CIPNの評価は下肢末端を評価部位とし,客観的評価として触覚検査,振動覚検査,主観的評価としてしびれについて検査を行った。触覚検査はモノフィラメント知覚テスターを用い,母趾指腹,母趾球,踵部,足首の四カ所の触覚を測定し,測定方法にはup and down methodを用いた。振動覚検査は音叉を用い,内果の振動覚を測定し,測定方法はtimed methodを用いた。しびれの主観的検査はVisual Analog Scale(以下,VAS)を用い前足部,足底部,足首の三カ所の主観的なしびれを評価した。測定はベースライン,フォローアップ時ともに化学療法実施日に行い,薬剤の投与前に上記評価を完了した。統計解析は対応のあるt検定およびWilcoxonの符号付順位検定を用い,それぞれの評価項目におけるベースライン時からフォローアップ時の値の変化を検討した。


【結果】

触覚検査では踵部のみに有意な変化がみられ,フォローアップ後に有意に触覚が低下していた(p<0.01)。振動覚検査においてはフォロー後に有意に増悪がみられた(p<0.01)。下肢末端のしびれの主観的検査においては前足部,足底部,足首部ともにフォロー後に有意差は見られなかった。


【結論】

三ヶ月のフォローアップ調査により,CIPNの障害様式は主に踵部の触覚低下および振動覚の低下であることが明らかとなった。一方で,主観的なしびれは変化がなく,客観的評価ツールで足底した触覚や振動覚の方が鋭敏に神経障害を反映しており,患者が障害を認知する前から感覚障害が生じていることが示唆された。