第51回日本理学療法学術大会

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一般演題口述

日本理学療法教育学会 一般演題口述
(教育)02

Fri. May 27, 2016 4:00 PM - 5:00 PM 第9会場 (札幌コンベンションセンター 2階 207)

座長:潮見泰藏(北海道千歳リハビリテーション学院 理学療法学科)

[O-ED-02-6] 青年期における職業的アイデンティティの形成と学生指導に関する一考察

佐野純平, 山際清貴, 小野晋, 小関博久 (東都リハビリテーション学院)

Keywords:職業的アイデンティティ, 学生指導, 実態調査

【はじめに,目的】

本学在校生の多くは発達段階論における「青年期」に該当し,アイデンティティの確立に重要な時期であるとされている。とりわけ,理学療法士(PT)養成校においては,一般教養のみならず医学的な高い専門性が求められ,リハビリテーションの一翼を担う専門職としての職業的アイデンティティ(Vocational Identity:VI)の確立が極めて重要となると考えられる。今回我々は,VIの確立に関する適切な支援を行うための一助としてVIの形成を調査したので報告する。


【方法】

対象は,本学昼間部1~3年生222名とした。方法は,大橋らが作成した「職業的アイデンティティの形成度に関する質問紙」を用いた。この質問紙は20項目の質問で構成されており,各項目に対し「非常に当てはまる」から「全く当てはまらない」の7件法で回答を求めるものである。また,各項目を「PT選択への自信」「自分のPT観の確立」「PTとして必要とされることへの自負」「社会貢献への志向」の4因子に分類し,学年別の因子別スコアを分析した。分析には一元配置分散分析を用い,有意水準は5%とした。


【結果】

222名中,回答に欠損や不備のない211名のデータを用いた(男性147名,女性64名,平均年齢19.7±1.3歳)。「PT選択への自信」については1年生のスコアが有意に高く(P<0.05),2・3年生間に有意差は認められなかった。「自分のPT観の確立」および「PTとして必要とされることへの自負」については2年生のスコアが有意に低く(P<0.05),1・3年生間に有意差は認められなかった。「社会貢献への志向」については,各学年間で有意差は認められなかった。


【結論】

1年生の「PT選択への自信」が高値を示したのは,PTを目指すという目標を掲げて入学した学生が大半であることからも矛盾はないと考える。または,自身の将来像に対する期待感の表れともいえるのではなかろうか。一方,2年生の「PT観の確立」や「必要とされることへの自負」が低値を示したのは,見学実習や専門科目の増加などで徐々にPT観が明確になり,PTを目指すことの困難感や自信の喪失を体験している時期であるためと考えた。すなわち,理想と現実が垣間見える時期といえよう。3年生で再び高値を示したのは,2年次の喪失体験を克服し得たこと,また最終学年が近付きゴールが明確になることでPTを選択した責任が改めて芽生えたためではないかと考えた。本研究によりVIは高学年になるに連れて漸増的に形成されるのではなく,流動的に形成されることが明らかとなった。我々は,学生の個性に合わせた指導を行うべきであることに議論の余地はない。加えて,近年は容易に進路変更を選択する学生が増加傾向にあることからも,VIの確立に関する指導においては本研究の結果を根拠とした柔軟な対応が必要とされるのではあるまいか。また,今後は4年生への調査および個人の経年的な変化を調査することで,一層の理解を深める必要があると考えた。