[O-HT-03-1] 心臓外科手術による骨格筋指数の変化と術後歩行自立日数に関連する因子について
キーワード:心臓外科手術, 骨格筋指数, 歩行自立日数
【はじめに,目的】
心臓外科手術を受けると手術侵襲による炎症で代謝が亢進し,筋蛋白分解によって,筋肉量の低下がおこるとされている。筋肉量が低下すると転倒・動脈硬化のリスクが高まる,あるいは移動能力・生存率を低下させるとの報告が散見される。しかし手術前後での筋肉量の比較・検討を行った報告は少ない。また,術後のリハビリテーションを遅延させる因子として年齢,性別,手術前の腎機能障害の有無,術後の体重増加などが報告されているが,術前の筋肉量と術後リハビリテーション進行との関連について検討した報告は少ない。本研究の目的は,術前後の筋肉量を比較し,術前筋肉量と術後リハビリテーション進行との関連を明らかにすることである。
【方法】
対象は,2014年6月から2015年3月までに心臓外科手術を施行され,術前と退院時に体組成を測定した患者86名(性別:男性63名,女性23名,年齢:68.9±12.4歳,術式:CABG 8例,OPCAB 31例,AVR 13例,MVR 3例,MVP 8例,複合弁手術14例,CABG+弁置換・弁形成術9例)とした。筋肉量は,二重エネルギーX線骨塩分法と高い相関を持つ,多周波生体インピーダンス法(In body430,Biospace製)にて測定した。測定時間は,食事による影響をさけるため食後2時間以上の間隔をあけて行った。得られた体組成の結果から,筋肉量の指標として四肢の筋量を身長の2乗で除して骨格筋指数(SMI:Skeletal Muscle Index)を算出した。術前と退院時のSMIを対応のあるt検定を用いて比較した。また,術後の病棟歩行連続100m自立日までを歩行自立日数とした。従属変数を歩行自立日数,独立変数を年齢,術前SMI,手術時間,4m歩行速度,%VC,握力,Cr,LVEFとして,ステップワイズ法による重回帰分析を行い,歩行自立日数と関連のある独立変数を求めた。統計ソフトはSPSSstatistics23.0を使用し統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】
SMIは,術前7.0±1.1kg/m2に対して退院時6.7±1.1kg/m2と有意な低下を認めた(p<0.01)。退院時の体組成測定日は術後18.8±11.3日であった。重回帰分析の結果から,有意に関連がある独立変数は手術時間と術前SMIで,R2=0.428,(p<0.01)であった。
【結論】
術前と比べて退院時の,SMIは有意な低下を認めた。SMIの低下は手術侵襲による体組織の異化亢進によって,体内脂肪と蛋白質が減少したこと,術後の食事摂取制限や安静などが影響していると思われる。今後,SMIの低下が退院後のADLや再入院率・生存率にどのような影響を与えているかを検討していく必要があると考えられる。術後歩行自立日数と有意な関連があった独立変数が手術時間と術前SMIであったことから,手術時間が長く身体への侵襲が強い症例や,術前SMIが低値で筋肉量が少ない症例ほど,手術後の歩行自立日数が遅くなりうることが示された。
心臓外科手術を受けると手術侵襲による炎症で代謝が亢進し,筋蛋白分解によって,筋肉量の低下がおこるとされている。筋肉量が低下すると転倒・動脈硬化のリスクが高まる,あるいは移動能力・生存率を低下させるとの報告が散見される。しかし手術前後での筋肉量の比較・検討を行った報告は少ない。また,術後のリハビリテーションを遅延させる因子として年齢,性別,手術前の腎機能障害の有無,術後の体重増加などが報告されているが,術前の筋肉量と術後リハビリテーション進行との関連について検討した報告は少ない。本研究の目的は,術前後の筋肉量を比較し,術前筋肉量と術後リハビリテーション進行との関連を明らかにすることである。
【方法】
対象は,2014年6月から2015年3月までに心臓外科手術を施行され,術前と退院時に体組成を測定した患者86名(性別:男性63名,女性23名,年齢:68.9±12.4歳,術式:CABG 8例,OPCAB 31例,AVR 13例,MVR 3例,MVP 8例,複合弁手術14例,CABG+弁置換・弁形成術9例)とした。筋肉量は,二重エネルギーX線骨塩分法と高い相関を持つ,多周波生体インピーダンス法(In body430,Biospace製)にて測定した。測定時間は,食事による影響をさけるため食後2時間以上の間隔をあけて行った。得られた体組成の結果から,筋肉量の指標として四肢の筋量を身長の2乗で除して骨格筋指数(SMI:Skeletal Muscle Index)を算出した。術前と退院時のSMIを対応のあるt検定を用いて比較した。また,術後の病棟歩行連続100m自立日までを歩行自立日数とした。従属変数を歩行自立日数,独立変数を年齢,術前SMI,手術時間,4m歩行速度,%VC,握力,Cr,LVEFとして,ステップワイズ法による重回帰分析を行い,歩行自立日数と関連のある独立変数を求めた。統計ソフトはSPSSstatistics23.0を使用し統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】
SMIは,術前7.0±1.1kg/m2に対して退院時6.7±1.1kg/m2と有意な低下を認めた(p<0.01)。退院時の体組成測定日は術後18.8±11.3日であった。重回帰分析の結果から,有意に関連がある独立変数は手術時間と術前SMIで,R2=0.428,(p<0.01)であった。
【結論】
術前と比べて退院時の,SMIは有意な低下を認めた。SMIの低下は手術侵襲による体組織の異化亢進によって,体内脂肪と蛋白質が減少したこと,術後の食事摂取制限や安静などが影響していると思われる。今後,SMIの低下が退院後のADLや再入院率・生存率にどのような影響を与えているかを検討していく必要があると考えられる。術後歩行自立日数と有意な関連があった独立変数が手術時間と術前SMIであったことから,手術時間が長く身体への侵襲が強い症例や,術前SMIが低値で筋肉量が少ない症例ほど,手術後の歩行自立日数が遅くなりうることが示された。