[O-HT-03-3] 多臓器障害が開心術後のリハビリテーションに及ぼす影響について
―多臓器不全スコア(SOFA score)を用いた検証―
Keywords:心臓外科手術, 心臓リハビリテーション, 多臓器不全スコア
【はじめに,目的】
近年,手術技術や周術期管理の進歩により手術適応が拡大されていく中において,心肺腎機能など予備能が低下した高齢者や様々な合併症を有した患者が増加してきている。心臓手術後は手術侵襲や輸液などの影響により,多臓器に障害が引き起こされる危険性があるが,術後の多臓器障害とリハビリテーション(リハ)の進行に関する報告は極めて少ない。そこで,先行研究で示されている諸因子に加え,臓器の障害度をスコア化して示す多臓器不全スコア(Sequential Organ Failure Assessment score:SOFA score)を用いて,リハ進行との関連について調査した。
【方法】
対象は2013年4月から2015年8月に当院にて待機的開心術を施行し,術前に100m歩行が自立していた154例(平均年齢68.6±9.1歳,男性72%)とした。日本循環器学会による「心大血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2012年改訂版)」を参考にし,病棟内歩行自立が術後5日以内を早期群(97例),6-8日を順調群(33例),9日以降または非自立を遅延群(24例)の3群に分類した。なお,病棟内歩行自立の定義は,歩行器を除く歩行補助具使用下での歩行または独歩にて連続100m以上歩行可能であると理学療法士が判断した場合とした。各群における年齢,性別,合併症の有無,LVEF,術式,手術時間,麻酔時間,手術24時間後のSOFA score,リハ進行として歩行開始日,病棟内歩行自立日を後方視的に調査し比較検討した。統計解析には,χ二乗検定,一元配置分散分析あるいはKruskal-Wallis検定を用いて3群での群間比較を行った。さらに病棟内歩行自立が遅延するか否かを従属変数とした多重ロジスティックス回帰分析を行った。すべての統計解析において有意水準は5%未満とした。
【結果】
群間比較の結果,患者背景因子は年齢,血液透析,慢性腎臓病の合併率が(それぞれp<0.01),周術期因子は手術時間,麻酔時間,手術24時間後のSOFA scoreが(それぞれp<0.01),リハ進行は歩行開始日,病棟内歩行自立日で統計学的有意差を認めた(それぞれp<0.01)。多重ロジスティックス回帰分析の結果,手術24時間後のSOFA scoreが病棟内歩行自立遅延に最も強く影響する因子として抽出された(オッズ比:2.1,95%信頼区間:1.5-3.2,p<0.01)。
【結論】
リハ進行が遅延する患者の特徴として,高齢,血液透析患者,慢性腎臓病の合併,手術24時間後のSOFA scoreが高値,手術時間および麻酔時間が長いことが挙げられた。また,手術24時間後のSOFA scoreが病棟内歩行自立遅延因子として最も強く影響しており,開心術後の多臓器障害がリハ進行に影響を及ぼすことが示された。本研究より,加齢や併存疾患による臓器の予備能低下に手術侵襲が加わることで,多臓器に障害が生じることが推察され,術後早期にSOFA scoreを評価することは,リハ進行を予測する一助になるものと考えられた。
近年,手術技術や周術期管理の進歩により手術適応が拡大されていく中において,心肺腎機能など予備能が低下した高齢者や様々な合併症を有した患者が増加してきている。心臓手術後は手術侵襲や輸液などの影響により,多臓器に障害が引き起こされる危険性があるが,術後の多臓器障害とリハビリテーション(リハ)の進行に関する報告は極めて少ない。そこで,先行研究で示されている諸因子に加え,臓器の障害度をスコア化して示す多臓器不全スコア(Sequential Organ Failure Assessment score:SOFA score)を用いて,リハ進行との関連について調査した。
【方法】
対象は2013年4月から2015年8月に当院にて待機的開心術を施行し,術前に100m歩行が自立していた154例(平均年齢68.6±9.1歳,男性72%)とした。日本循環器学会による「心大血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2012年改訂版)」を参考にし,病棟内歩行自立が術後5日以内を早期群(97例),6-8日を順調群(33例),9日以降または非自立を遅延群(24例)の3群に分類した。なお,病棟内歩行自立の定義は,歩行器を除く歩行補助具使用下での歩行または独歩にて連続100m以上歩行可能であると理学療法士が判断した場合とした。各群における年齢,性別,合併症の有無,LVEF,術式,手術時間,麻酔時間,手術24時間後のSOFA score,リハ進行として歩行開始日,病棟内歩行自立日を後方視的に調査し比較検討した。統計解析には,χ二乗検定,一元配置分散分析あるいはKruskal-Wallis検定を用いて3群での群間比較を行った。さらに病棟内歩行自立が遅延するか否かを従属変数とした多重ロジスティックス回帰分析を行った。すべての統計解析において有意水準は5%未満とした。
【結果】
群間比較の結果,患者背景因子は年齢,血液透析,慢性腎臓病の合併率が(それぞれp<0.01),周術期因子は手術時間,麻酔時間,手術24時間後のSOFA scoreが(それぞれp<0.01),リハ進行は歩行開始日,病棟内歩行自立日で統計学的有意差を認めた(それぞれp<0.01)。多重ロジスティックス回帰分析の結果,手術24時間後のSOFA scoreが病棟内歩行自立遅延に最も強く影響する因子として抽出された(オッズ比:2.1,95%信頼区間:1.5-3.2,p<0.01)。
【結論】
リハ進行が遅延する患者の特徴として,高齢,血液透析患者,慢性腎臓病の合併,手術24時間後のSOFA scoreが高値,手術時間および麻酔時間が長いことが挙げられた。また,手術24時間後のSOFA scoreが病棟内歩行自立遅延因子として最も強く影響しており,開心術後の多臓器障害がリハ進行に影響を及ぼすことが示された。本研究より,加齢や併存疾患による臓器の予備能低下に手術侵襲が加わることで,多臓器に障害が生じることが推察され,術後早期にSOFA scoreを評価することは,リハ進行を予測する一助になるものと考えられた。