第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題口述
(基礎)03

2016年5月27日(金) 14:50 〜 15:50 第7会場 (札幌コンベンションセンター 2階 204)

座長:百瀬公人(信州大学 医学部保健学科)

[O-KS-03-3] 他動運動装置と電気刺激の併用による下肢骨格筋の筋力増強効果

田中稔1,2, 中西亮介1, 前重伯壮1, 藤野英己1 (1.神戸大学大学院保健学研究科, 2.大阪行岡医療大学医療学部)

キーワード:電気刺激, 遠心性収縮, 筋力増強

【はじめに,目的】

高い筋力増強効果を得るには高負荷での抵抗運動が必要であるが,虚弱高齢者や全身状態が悪化した症例では,自発的に高負荷の運動ができない。このような症例には,神経筋電気刺激が筋力増強に有効であると報告されている。一方,電気刺激により筋へ与える負荷量は刺激強度に依存するが,高い刺激強度では疼痛が誘発されるため,十分な負荷を与えられない。それに対し我々は,動物実験による先行研究で,電気刺激による疼痛を増加することなく高い筋負荷を得るためには,低強度での電気刺激に他動運動を同期させて遠心性収縮を実施することが効果的であるとの成果を得た。そこで,本研究では動物実験で得られた現象をヒトに応用して確認するために,電気刺激と他動運動を併用した遠心性収縮の力学的特性と疼痛の即時反応及び長期介入による筋力増強効果を検証した。

【方法】

本研究では,電気刺激に同期して作動し,大腿四頭筋に遠心性収縮が生じる他動運動装置を使用した。即時反応の検証では健常成人男性19名を被験者とし,刺激強度が30%MVCとなるように設定した。最大随意筋力(MVC),電気刺激単独及び電気刺激と他動運動を併用した遠心性収縮時の筋出力をロードセルで測定して,膝伸展トルクを算出した。電気刺激中の疼痛評価として,Numeric Rating Scale(NRS)及び自律神経機能活性度(LF/HF)を計測した。長期介入の効果検証では,健常成人男性7名を被験者とし,左下肢に電気刺激単独,右下肢に電気刺激と遠心性収縮を併用した介入を3回/週,6週間実施した。介入前後の膝伸展トルクと大腿直筋及び中間広筋の筋厚を比較した。

【結果】

膝伸展トルクの即時反応では,遠心性収縮の併用で69%MVCまで上昇し,電気刺激単独時の膝伸展トルクである30%MVCと比較して有意に高値を示した。また,NRS及びLF/HFは電気刺激単独時と遠心性収縮の併用時との間に有意な差は認められなかった。一方,長期介入の結果,電気刺激単独による介入後の膝伸展トルクは,介入前に比べて約3%の上昇で有意差を認めなかったが,遠心性収縮を併用することで介入前に比べて約17%上昇し,有意に高値を示した。さらに膝伸展トルク及び各筋の筋厚の長期介入前後における変化量は,遠心性収縮を併用することで,電気刺激単独介入に比較して,共に有意に高値を示した。

【結論】

電気刺激と遠心性収縮の併用は疼痛や自律神経系を変化させることなく膝伸展トルクを増強できた。また,長期効果の結果から電気刺激単独と比較して,高い筋力増強効果が確認された。本研究の結果から,電気刺激と遠心性収縮の併用は,電気刺激単独では十分な負荷を誘導できない刺激強度でも,筋力増強に必要な負荷量まで増強できるため,効率的な筋力増強手段となる可能性を明らかにした。