第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題口述
(基礎)04

2016年5月27日(金) 16:00 〜 17:00 第7会場 (札幌コンベンションセンター 2階 204)

座長:大西秀明(新潟医療福祉大学 理学療法学科)

[O-KS-04-2] マカクザルによる半側空間無視の動物モデル

辻本憲吾1,2, 澤田真寛1, 福永雅喜3, 吉田正俊1,2 (1.自然科学研究機構・生理学研究所・認知行動発達機構研究部門, 2.総合研究大学院大学・生命科学研究科・生理科学専攻, 3.自然科学研究機構・生理学研究所・心理生理学研究部門)

キーワード:半側空間無視, 注意, マカクザル

【はじめに,目的】

半側空間無視とは主に右大脳半球の損傷によって引き起こされ,損傷と反対側の空間の感覚刺激に対する反応が欠如・低下する現象の事を指す。半側空間無視は背側注意経路と腹側注意経路が関係しており(Corbetta,2002),近年の研究によると腹側注意経路の損傷により,半側空間無視が出現すると報告されている(Shulman GL 2011)。しかし,どのような神経機構によって無視が起こっているか,明確にわかっている事は少ない。また,半側空間無視の動物モデルも確立していない。しかし近年の解剖学的研究から,マカクザルにも注意の背側経路と腹側経路に相同な神経ネットワークがあることが示唆されている。マカクザルの半側空間無視モデルを作成する事により,神経メカニズムを明らかにし,さらに有効なリハビリテーションの手法の開発に繋げられると考える。そこで本研究では,マカクザル半側空間無視モデルを作成することを目的とする。


【方法】

本研究は2頭のマカクザルで脳損傷を作成した。2頭のサルは,側頭連合野と前頭連合野とを離断するために腹側注意経路の相同部位である右上側頭回を損傷した。サルの半側空間無視を評価する課題を確立するために,ヒト患者での評価法として用いられる線分抹消課題を参考にし,ケージ内およびモンキーチェア上で評価できる課題を作成した。ケージ内の評価として「食物選択課題」を2頭のサルに行わせた。この課題は左右に各3つの蓋つきの筒があり,左右の各1つに縞模様の筒がある。サルは縞模様の筒を選択すると報酬がもらえる。モンキーチェア上での評価として「刺激選択課題」を1頭のサルに行わせた。この課題はタッチパネルを使用し,10個の刺激に1つだけ色や形の異なるターゲットが存在する。サルは2秒以内にそのターゲットにタッチすると報酬がもらえる。また刺激のセットは4種類使用した。さらに2頭のサルで3Tの核磁気共鳴画像法装置を用いて安静時脳活動を記録した。


【結果】

ケージ内の評価では2頭とも術後1週間は損傷側の空間に比べ,非損傷側の空間を長時間無視する空間無視様の症状がみられた。さらに1頭では,術後1ヶ月後でも損傷側に比べ,非損傷側の空間に対する反応時間が長くなった。モンキーチェア上の評価では術後1週間は4種類すべてに損傷側に比べ,非損傷側で反応時間は長くなり,正答率も低下した。また2頭とも運動障害および一次的な知覚障害はみられなかった。安静時脳活動では上側頭回の損傷によって損傷後1週間の段階では頭頂連合野と前頭連合野の間の機能的結合が低下していた。


【結論】

本研究結果から,脳損傷による無視症状がマカクザルにおいても見られることが明らかになった。また安静時機能MRIによって無視症状に関連した脳活動を同定することができた。以上のことから,マカクザルが半側空間無視の動物モデル確立のために有望であると考える。