第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題口述
(基礎)06

2016年5月27日(金) 18:20 〜 19:20 第7会場 (札幌コンベンションセンター 2階 204)

座長:坂本淳哉(長崎大学)

[O-KS-06-2] マカクサル第一次運動野損傷後の機能回復に伴う神経回路再編成

腹側運動前野から赤核へと向かう経路

山本竜也1,2, 林拓也3, 村田弓2, 尾上浩隆4, 肥後範行2 (1.つくば国際大学医療保健学部理学療法学科, 2.産業技術総合研究所人間情報研究部門システム脳科学研究グループ, 3.理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター機能構築イメージングユニット, 4.理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター生体機能評価研究チーム)

キーワード:脳損傷, 可塑性, 神経回路

【はじめに,目的】

第一次運動野(M1:primary motor cortex)は大脳皮質と脊髄とを結ぶ皮質脊髄路ニューロンを豊富に含む領域である。この領域に損傷を受けると運動麻痺が生じる。しかし,このような麻痺は回復することがある。マカクサルを用いた行動学・薬理学及び脳機能画像解析により,M1損傷後に手指の把握運動が回復すること,その背景に大脳皮質運動関連領域(特に損傷同側半球の腹側運動前野【PMv:ventral premotor cortex】)による機能代償があることが明らかにされた。しかし,このような機能代償がどのような神経回路基盤により制御されているのかに関しては未だ不明な点が多い。本研究では,行動学・薬理学・組織学及び脳構造画像解析を用いて,M1損傷後の機能代償がどのような神経回路の再編成により実現されているのかを検証した。


【方法】

マカクサル2頭(Macaca mulatta,体重:7.0-8.0 kg,性別:オス)に対し皮質内微小刺激を用いてM1手領域を同定した後,神経毒(イボテン酸)注入による不可逆的な損傷を作成した。手指の把握運動機能を評価するために,目の前にある小さな餌をつまみ取る行動課題を学習させ,餌を落とさずに食べることを課題成功の条件とした。M1損傷前及び損傷後にMRI撮像を実施し,脳構造画像解析(拡散テンソル画像解析)を行った。

損傷前と同程度な課題成功率に達した損傷マカクサルの損傷同側PMvに解剖学的トレーサー(BDA:biotinylated dextran amine)を注入し,その1か月後に還流固定を行った。対照群として,健常マカクサル3頭(Macaca mulatta,体重:4.0-5.5 kg,性別:オス)のPMvにもBDAを注入した。凍結切片作成後,BDA陽性軸索を可視化するために免疫組織化学染色(ABC法:avidin-biotinylated peroxidase complex)を行った。


【結果】

脳構造画像解析の結果,M1損傷後の機能回復時には,損傷同側及び対側半球の赤核において,損傷前よりも拡散異方性(FA値:fractional anisotopy)が上昇していた。神経毒(テトロドトキシン)を用いて同側または対側の赤核を一過性に不活性化したところ,M1損傷後の機能回復時には,いずれの不活性化においても把握運動機能が低下した。組織学的検証の結果,損傷同側及び損傷対側の赤核(特に大細胞層)において,健常よりも損傷マカクサルの方がより多くのBDA陽性軸索が観察された。


【結論】

本研究結果は,M1損傷後に損傷同側PMvから損傷同側及び対側の赤核(大細胞層)に投射する直接経路が形成され,この経路が損傷後の運動機能回復に寄与することを示唆する。赤核大細胞層には,脊髄に投射するニューロンが豊富に存在することが知られている。したがって,皮質から脊髄へ直接投射する経路(皮質―脊髄路)が損傷による影響を受けた後,並行した他の出力経路(皮質―赤核―脊髄路)を新たに構築・強化することにより,運動機能の代償を成し遂げていると推察される。