第51回日本理学療法学術大会

Presentation information

一般演題口述

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題口述
(基礎)06

Fri. May 27, 2016 6:20 PM - 7:20 PM 第7会場 (札幌コンベンションセンター 2階 204)

座長:坂本淳哉(長崎大学)

[O-KS-06-4] 運動による中枢性疼痛抑制系および痛覚感受性の持続的変化と自律神経応答の関与

服部貴文1, 城由起子2, 下和弘3, 松原貴子4 (1.前原整形外科リハビリテーションクリニックリハビリテーション部, 2.名古屋学院大学リハビリテーション学部, 3.愛知医科大学運動療育センター, 4.日本福祉大学健康科学部)

Keywords:疼痛緩和, 有酸素運動, 自律神経

【目的】

疼痛マネジメントとしての運動の効果は,筋力増強や柔軟性向上といった身体機能の改善に伴う二次的効果が期待されてきたが,近年では運動による疼痛抑制(EIH)効果が多数報告されており,我々も40%HRR強度の有酸素運動によるEIH効果を報告した(岩佐2014)。しかし,これらの報告は即時的な痛覚感受性の低下を指標としたものであり,これまでEIHの持続効果や中枢性疼痛抑制系の関与まで検討した報告は見受けられない。一方,痛みで痛みを抑制するconditioned pain modulation(CPM)が中枢性疼痛抑制系の指標として用いられるようになり,慢性痛患者ではCPM効果を得にくいなど,慢性痛との関係が報告されている(Graven-Nielsen 2015)。また,EIH効果の機序は未だ明らかでないが,我々はこれまでにEIH効果を得にくい者では,運動時の生理的な自律神経応答が減弱していることを確認しており(城2012),EIHと自律神経応答の関係が推察される。そこで本研究は,有酸素運動によるEIHの持続効果をCPMおよび痛覚感受性を指標に調べるとともに,自律神経応答との関係を検証した。

【方法】

対象は健常男性10名(21.8±1.0歳)とした。運動は自転車エルゴメーターによる40%HRR強度での有酸素運動15分間とし,CPM,痛覚感受性,心拍変動(HRV)を運動終了60分後まで経時的に測定した。CPMは2℃の冷水に右手部を浸漬する前,中の左上腕二頭筋と左大腿四頭筋の圧痛閾値(PPT)変化量とし,運動前,直後および15,30,45,60分後に測定した。痛覚感受性は冷水浸漬前のPPTとした。HRVは,経時的に記録した心電図より心拍数(HR)とR-R間隔の周波数解析から低周波数帯(LF:0.04-0.15 Hz),高周波数帯(HF:0.15-0.40 Hz,副交感神経活動指標)のパワー値とLF/HF比(交感神経活動を反映)を算出し,運動前,中,直後および15,30,45,60分後の各1分間の平均値を求めた。統計解析は経時的変化の比較にはFriedman検定およびTukey-typeの多重比較検定,また,各項目の運動前からの変化量を算出しHRVとCPMおよびPPT各変化量の相関関係にSpearmanの順位相関係数を用い,有意水準は5%とした。



【結果】

CPMは両部位とも全時点で変化を認めなかった。PPTは両部位とも運動前に比べ運動直後と15分後に上昇した(p<0.05)。HRとLF/HF比は運動前に比べ運動中に増大(p<0.05),HFは運動前および運動終了30,45,60分後に比べ運動中に減衰した(p<0.05)。また,HRVとCPMおよびPPT各変化量に相関は認めなかった。

【結論】

40%HRR程度の低負荷有酸素運動ではCPM効果は認められず,中枢性疼痛抑制系の関与は明らかでないものの,痛覚感受性低下は全身性に運動終了15分後まで持続した。また,自律神経応答は,運動中にのみ交感神経活動の賦活と副交感神経活動の減衰を示し,EIHとの相関を認めなったことから,EIH効果の持続性に対する自律神経応答の直接的影響は少ない可能性が示唆された。