第51回日本理学療法学術大会

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一般演題口述

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題口述
(基礎)07

Sat. May 28, 2016 10:00 AM - 11:00 AM 第6会場 (札幌コンベンションセンター 2階 小ホール)

座長:浅賀忠義(北海道大学 大学院保健科学研究院機能回復学分野)

[O-KS-07-5] 痛みの予期が非侵害性の触覚刺激に対する脳内情報処理に与える影響

藤本千瑛1, 大鶴直史2, 中川慧2, 弓削類2 (1.広島大学医学部保健学科理学療法学専攻, 2.広島大学大学院医歯薬保健学研究院生体環境適応科学研究室)

Keywords:痛覚, 一次体性感覚野, 脳磁場計測装置

【はじめに,目的】

侵害受容刺激の入力は,脊髄視床路を通じ,大脳皮質に投射されることが知られている。これまでの報告で,痛みの予期が存在することで非侵害受容刺激に対しても二次体性感覚野・島・帯状回の活動が増大することが明らかになってきた。しかしながら,痛みの予期が一次体性感覚野の活動に及ぼす影響について検討した報告は見当たらない。そこで本研究では,痛みの予期が非侵害性の触覚刺激に対する大脳皮質の活動に与える影響を明らかにすることを目的に,脳磁場計測装置(magnetoencephalography:以下MEG)を用いて検討した。


【方法】

対象は,9名(男性7名,女性2名)とした。触覚刺激には,表面刺激電極を痛覚刺激には表皮内電気刺激を用い,刺激部位は左手背の母指基節骨付近とした。実験条件は,3発の痛覚刺激の後に1発の触覚刺激を呈示するパターン条件と1から5発の痛覚刺激の後に1発の触覚刺激を呈示するランダム条件の2条件とした。すなわち,パターン条件では,触覚刺激時に触覚が呈示されることが明確に予期でき,ランダム条件ではどちらの刺激が呈示されるか予期できない条件である。上記2条件における触覚刺激に対する皮質活動を,306チャンネル全頭型MEG(Vector-view,ELEKTA Neuromag,Finland)を用いて計測した。触覚刺激の刺激強度は触覚閾値の2.5倍,痛覚刺激の刺激強度は痛覚閾値の2倍とした。刺激間間隔は,2条件ともに1500msecとし,パルス幅は0.5msecの矩形波を用いた。2条件の試行順は,被験者ごとにランダムとし,加算回数は80回とした。解析には,等価電流双極子(equivalent current dipole:ECD)推定法を用い,活動源を推定した。また,計測中被験者には無音のビデオを見せ,注意の影響を除外して実験を行った。条件間の皮質内活動振幅の比較には,対応のあるt検定を用い,有意水準は5%とした。


【結果】

各条件における触覚刺激に対し,明瞭な皮質活動が記録された。ECD推定により,活動源は刺激対側の一次,二次体性感覚野に推定された。一次体性感覚野において,ランダム条件ではパターン条件と比較し有意に活動振幅が増大した。一方で,二次体性感覚野ではランダム条件とパターン条件の間において有意な差は認められなかった。


【結論】

本研究では,ランダム条件において,非侵害性の触覚刺激に対する一次体性感覚野の活動が有意に増大した。このことは,痛覚刺激が呈示される予期が高い場合,一次体性感覚野の興奮性が増大することを示している。また本研究では,刺激に注意を払わない条件下で実験を行っているため,痛みのタイミングは自動的に予期され,皮質活動に影響を及ぼすことを示唆している。