第51回日本理学療法学術大会

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一般演題口述

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題口述
(基礎)07

Sat. May 28, 2016 10:00 AM - 11:00 AM 第6会場 (札幌コンベンションセンター 2階 小ホール)

座長:浅賀忠義(北海道大学 大学院保健科学研究院機能回復学分野)

[O-KS-07-6] 初期視覚認知における気づきの神経基盤の解明

高密度脳波計を用いた事象関連電位研究

高宮尚美1,2, 緒方勝也2, 前川敏彦2, 沖田一彦1, 飛松省三2 (1.県立広島大学保健福祉学部理学療法学科, 2.九州大学大学院医学研究院脳神経病研究施設臨床神経生理)

Keywords:気づき, 視覚, 事象関連電位

【はじめに,目的】

リハビリテーション治療に難渋することの多い半側空間無視(unilateral spatial neglect,USN)には,注意障害のみならず気づきの障害が関連することが,近年指摘されている。リハビリテーション治療は運動学習過程と言い換えられるが,USN患者だけに限定されたものではなく,気づきはその運動学習効果に影響を与えると考えられる。また,USNを代表とする「気づき」の障害の多くが右半球損傷で生じることはよく知られている。そこで本研究では,気づきの神経基盤の基礎研究として,①初期視覚領域における「気づき」の神経基盤の時系列的,空間的な流れを検証すること,②半球間機能差について事象関連電位(event-related potential,ERP)で解明すること,を目的とする。



【方法】

対象は20歳以上の右利きで健常な男女18名である。刺激画像はヒトの顔もしくは物体の写真を左右半視野に提示した。後方マスク法を利用した気づきを伴わない識閾下(サブリミナル)刺激(17-ms)および意識上刺激(300-ms)をモニター上に提示した際のERPを,高密度脳波計(128-ch EEG)で記録した。解析対象は左右後頭部のP100,および左右側頭後頭部のN170とした。

【結果】

サブリミナル刺激では,P100は同定可能であったが,N170は同定できなかった。また,P100振幅・潜時について刺激種類,刺激視野,半球間に統計学的有意差は認められなかった。一方,意識上刺激ではP100振幅の半球間に主効果(p<0.0001)が認められたが,刺激種類に有意差はなかった。また,刺激対側半球のN170振幅の主効果は刺激視野(p=0.0001),刺激種類(p<0.0001),交互作用は刺激視野と刺激種類(p=0.01)に認められ,左視野顔刺激に対する対側右半球のN170振幅が有意に大きかった。

【結論】

P100成分は一次視覚野(V1)の脳活動を反映すると考えられている。結果より,気づきの有無に関わらず視覚情報はV1へ入力していることが確認された。しかし,左右半視野に提示した刺激を視覚路に準じて対側半球に情報伝達していることが確認されたのは,意識上知覚でのみであった。

一方,N170成分は紡錘状回顔領域(fusiform face area,FFA)近傍後側頭溝に由来すると考えられているが,サブリミナル知覚では同定不能であり,意識上刺激でのみ誘発された。また,左視野提示時の右N170振幅が最大であったことから,ヒトの顔に対する意識上知覚における右V1から右FFAへの経路の機能的重要性が明らかとなった。以上のことから,気づきの有無によってヒトの顔の視覚認知処理経路が異なることが示唆された。