第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題口述
(基礎)09

2016年5月28日(土) 12:30 〜 13:30 第6会場 (札幌コンベンションセンター 2階 小ホール)

座長:大森圭貢(聖マリアンナ医科大学 整形外科学講座)

[O-KS-09-2] 無呼吸時の脳組織酸素飽和度と経皮的動脈血酸素飽和度の比較検討

―健常若年者息止め課題による反応時間に着目して―

菊地萌1, 久保洋平1, 光吉俊之1, 辻内名央1, 堀竜次2 (1.星ヶ丘医療センター, 2.大阪行岡医療大学)

キーワード:無呼吸, 脳組織酸素飽和度, 経皮的動脈血酸素飽和度

【はじめに,目的】

近年,脳卒中患者に対する超急性期からの理学療法介入が一般的となっているが,その際には脳保護のためのリスク管理が重要となる。また,脳卒中患者の20%に低酸素血症(Sulter,2000),90%に睡眠呼吸障害がみられるとの報告(芝﨑,2011)があり,無呼吸による酸素飽和度の低下に注意する必要がある。臨床ではパルスオキシメータによる経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)を指標とすることが多いが,これは末梢血流における酸素飽和度であるため,脳組織の酸素飽和度を評価できているかは疑問である。そこで我々は,脳卒中急性期において近赤外分光法を用いた脳組織酸素飽和度のモニタリングが離床の安全性の確保に寄与する可能性があると考えた。よって,本研究では健常若年者において無呼吸を想定した息止め課題を実施し,その際のSpO2と脳組織酸素飽和度の反応を比較検討した。


【方法】

対象は健常若年者9名(男性6名,女性3名,平均年齢25.9±2.8歳)。測定は背臥位にて行い,5分間の安静後,息止めを40秒,30秒,20秒の3条件で実施した。課題はそれぞれの条件で息止めと40秒間の安静呼吸を3サイクル繰り返した。測定中,示指にパルスオキシメータを装着しSpO2(%)を,NIRO-200NX(浜松ホトニクス)を用いて脳組織酸素飽和度(TOI:%)を記録した。NIROは2本のプローブの配置は国際10-20法よりFp1,Fp2に貼附した。それぞれの経時的な変化をグラフ化しパターン比較した。また,息止め課題前の安静時1分間のSpO2,TOIそれぞれの平均値と標準偏差(SD)を算出し,息止め課題開始後に6秒以上連続して安静時の平均値±2SDの値を逸脱した時点を反応時間(秒)と定義し算出した。Wilcoxonの符号付順位和検定を用いてそれぞれの反応時間を比較した。有意水準は5%とした。


【結果】

SpO2,TOIの変化パターンとして規則性のある3峰性変化が見られたのは,40秒条件ではSpO2が9例中5例,TOIが7例,30秒条件ではSpO2が4例,TOIが8例,20秒条件ではSpO2が3例,TOIが5例であった。平均反応時間は40秒条件でSpO2が52.4±24.6秒,TOIが26.0±10.4秒,30秒条件でSpO2が51.2±24.1秒,TOIが25.9±17.3秒,20秒条件でSpO2が49.6±21.6秒,TOIが34.2±20.6秒であった。Wilcoxonの符号付順位和検定の結果,40秒条件(p=0.033)でのみSpO2とTOIの反応時間に有意な差が認められた。


【結論】

SpO2に比べTOIの方が息止め課題に対し視覚的に規則性のある変化を示す傾向が認められた。また,反応時間において40秒条件ではTOIがSpO2よりも有意に短く,速いタイミングで反応を示していた。つまり,息止め課題による脳組織への影響はTOIの方がより俊敏に変化を捉えることができる可能性が示唆された。本研究は健常若年者での意図的な息止め課題で測定を行っており,脳卒中患者における無呼吸時の変化とは異なる可能性が考えられるため,今後実際の症例での測定,検討も必要となる。