第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題口述
(基礎)10

2016年5月28日(土) 13:40 〜 14:40 第6会場 (札幌コンベンションセンター 2階 小ホール)

座長:松原貴子(日本福祉大学 健康科学部)

[O-KS-10-5] 疼痛刺激時の交感神経活動の変化と内受容感覚の感受性の関係について

西勇樹1, 大住倫弘2, 信迫悟志2, 森岡周1,2 (1.畿央大学大学院健康科学研究科ニューロリハビリテーション研究センター, 2.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター)

キーワード:内受容感覚の感受性, 疼痛刺激, 交感神経活動

【はじめに,目的】

複合性局所疼痛症候群(Complex Regional Pain Syndrome:CRPS)では,交感神経機能の異常による心拍数の増大,心拍変動の低下が生じると報告されているが(Tsay 2015),交感神経機能の異常が生じやすい者の特徴は明らかになっていない。一方で,迷走神経交感神経バランスの活動の変動が大きい者ほど内受容感覚の感受性(以下,IS)は高いことが報告されている(Pollatos 2012)。このことから,疼痛刺激時に交感神経活動が亢進しやすい者はISが高い可能性があり,ISを定量的に捉えることによって,慢性疼痛への移行を事前に予測できることが想定される。本研究では,疼痛刺激中の交感神経活動の変化とISの関係性を明らかにし,臨床評価のための基礎的知見を見出すことを目的とした。



【方法】

対象は健常成人14名(男性5名,女性9名,平均年齢22.2±2.6歳)であった。内受容感覚の感受性は心拍追跡課題と心拍検出課題を用いた。心拍追跡課題では,一定時間(25,35,45,55s)手がかりなしで自分の心臓の拍動回数を数える課題を各時間条件3試行実施した。心拍検出課題では,連続して聴かされるビープ音が自分の心拍と同期しているかを判断させる課題を実施した。同期条件では心電図上のR波と同期させ,非同期条件はR波より300ms遅延してからビープ音が鳴るよう設定した。この課題を各15試行実施する。痛み刺激は圧痛計を用い,圧痛閾値は左右の母指球上に各2試行実施し,その平均値を疼痛閾値とした。また,心電図を用い安静時及び圧痛閾値測定時の自律神経活動を記録した。自律神経活動の指標として,測定されたR-R間隔をもとにローレンツプロット解析(Toichi 1997)を行い,交感神経系指標(以下,CSI)を算出し,疼痛刺激時と安静時のCSI値の差分を算出した。統計処理は各測定項目の相関についてピアソンの相関係数を行った。なお,有意水準は5%とした。



【結果】

心拍検出課題および心拍検出課題の成績と疼痛閾値との間には有意な相関関係が認められなかったが,心拍追跡課題とCSI値には正の相関を認めた(R=0.53,p<0.05)。つまり,心拍追跡課題の成績が良好な者ほど,疼痛刺激が与えられる時の交感神経の活動が亢進していた。



【結論】

圧痛閾値測定時の交感神経活動の変化をISを用いて検討した結果,心拍追跡課題の成績が良好な者ほどCSI値も高くなった。このことは,自身の内受容感覚に敏感な者ほど,疼痛刺激時の交感神経活動が亢進しやすく,痛みの認知が行われる前段階での痛みに対する生体反応が生じやすいことを意味する。今回の結果より,心拍追跡課題によるISの定量評価手法を用いれば,CRPSのような自律神経機能に変調をきたす難治性疼痛への移行を早期に予測することが臨床現場で可能になることが示唆された。