第51回日本理学療法学術大会

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一般演題口述

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題口述
(基礎)10

Sat. May 28, 2016 1:40 PM - 2:40 PM 第6会場 (札幌コンベンションセンター 2階 小ホール)

座長:松原貴子(日本福祉大学 健康科学部)

[O-KS-10-6] 嚥下障害患者に対する嚥下音,呼気音の周波数解析を用いた嚥下動態評価の試み

森下元賀1, 曽田淳也2, 小林まり子2 (1.吉備国際大学保健医療福祉学部理学療法学科, 2.医療法人思誠会渡辺病院リハビリテーション科)

Keywords:嚥下障害, 嚥下音, 音響解析

【はじめに,目的】嚥下機能は加齢や疾患によって容易に低下し,嚥下機能の低下が原因となって生じる誤嚥性肺炎は生命予後を左右する問題となっている。嚥下動態の評価としては嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査が一般的であるが,専門の設備やスタッフの問題から行える状況は限定される。そのため,嚥下時に侵襲なく行える頚部聴診法による嚥下音,嚥下前後の呼吸音の聴取が行われているが,検査者の主観によって評価している現状があり,誰でも容易に嚥下動態の評価が行えるとは言い難い。今回の研究では嚥下動態の容易かつ客観的な評価手法の確立を目指して,軽度嚥下障害患者の嚥下音,嚥下前後の呼気音を周波数解析することによって,嚥下障害患者の音響特性を明らかにすることを目的とした。

【方法】対象は加齢,中枢神経疾患による嚥下障害の患者7名(平均84.6±5.6歳,改訂水飲みテスト4点:2名,3点:5名)と健常若年者11名(平均20.8±0.6歳)とした。方法は,嚥下前に十分な咳嗽を行わせた後に5,10mlの常温水道水をコップより摂取し,自由なタイミングで嚥下させた。嚥下音,呼気音の聴取は小児用聴診器を輪状軟骨直下気管外側に設置して行った。聴診器のチューブにマイクロホンを挿入し,パソコンに音響信号を取り込んだ後に音響解析ソフト(吉正電子株式会社製,DSSF3)を用いて高速フーリエ変換による周波数解析を行った。解析は振幅波形から嚥下音持続時間を算出し,嚥下第一音(喉頭挙上音),第二音(上食道開放音)を同定し,嚥下前後の呼気音とともに250Hzの定帯域分析により各帯域の平均レベルを算出した。統計解析はそれぞれの項目,帯域で対象者と嚥下した量について二元配置分散分析を行った。

【結果】嚥下音持続時間は,5ml,10ml嚥下時ともに健常者と比較して,患者で有意に延長していた(p<0.05)。嚥下第一音は10ml嚥下時に1750Hzの帯域で健常者と比較して患者で有意に低いレベルを示した(p<0.05)。嚥下第二音は10ml嚥下時に2750,3000Hzの帯域で健常者と比較して患者で有意に高いレベルを示した(p<0.05)。嚥下前の呼気音はいずれのレベルも有意差がなかったが,嚥下後の呼気音は5ml,10ml嚥下時ともに2250Hz以上の全ての帯域で健常者と比較して患者で有意に高いレベルを示した(p<0.05)。

【結論】嚥下障害患者の嚥下音は,嚥下運動自体が緩徐になっていることに加え,複数回嚥下を行っていることが原因で延長していると考えられた。嚥下音は嚥下時の喉頭進入,咽頭残留によって健常者とは異なった特性を示したことが考えられ,特に嚥下後の呼気音に関しては,嚥下後の水の咽頭残留によって周波数特性が変化したことが考えられた。これらのことから,専門的な設備を持たない施設や在宅においても嚥下動態の客観的な評価として,嚥下音,呼気音の周波数解析は有用であることが示唆された。