第51回日本理学療法学術大会

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一般演題口述

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題口述
(基礎)11

Sat. May 28, 2016 2:50 PM - 3:50 PM 第6会場 (札幌コンベンションセンター 2階 小ホール)

座長:坂本美喜(北里大学 医療衛生学部 理学療法学専攻)

[O-KS-11-3] パルス超音波が悪液質性筋萎縮におけるp38 MAPKのリン酸化に及ぼす影響

上野瑞季, 前重伯壮, 平山佑介, 藤野英己 (神戸大学大学院保健学研究科)

Keywords:悪液質, 筋萎縮, パルス超音波

【はじめに,目的】

癌や敗血症では全身性に炎症性サイトカインが増加することで悪液質を呈する。悪液質は複雑な代謝異常症候群であり,骨格筋ではp38 MAPKのリン酸化が亢進し,筋タンパク質の分解経路が活性化され,筋萎縮が惹起される。一方,パルス超音波は炎症反応を抑制することが可能であると報告されており,炎症により誘導される悪液質性筋萎縮を予防できると考えられる。そこで,本研究ではマウス骨格筋由来の培養筋管細胞を使用し,リポポリサッカライド(LPS)誘導性の悪液質性筋萎縮に対するパルス超音波照射の予防効果を検証した。

【方法】

マウス骨格筋由来のC2C12筋芽細胞を60 mmディッシュに播種し,増殖培地で培養した。90%コンフルエント時に培地を分化培地へ変更し,筋管細胞に分化させた。超音波治療器(イトーUS-750,伊藤超短波社製)を用い,LPS添加の直前にパルス超音波を照射した。照射条件に関して,パルス超音波の強度依存性を検討する予備実験を行った結果,照射強度は最も効果的であった0.5 W/cm2とし,周波数3 MHz,照射時間率20%,照射時間30秒間とした。群分けは対照群,パルス超音波照射群,LPS添加群,LPS添加及びパルス超音波照射群の4群とした。また,パルス超音波照射がLPS添加1時間後のp38 MAPKのリン酸化,さらに24時間後の筋管細胞径,筋原線維タンパク質量,細胞生存率に及ぼす影響を検証した。得られた結果の統計処理には一元配置分散分析とTukeyの多重比較検定を用い,有意水準は5%未満とした。尚,パルス超音波照射の前後に培地温度に変化がないことを確認した。

【結果】

C2C12筋管細胞にLPS添加することで筋管細胞径と筋原線維タンパク質が減少し,細胞生存率が低下した。さらに筋管細胞におけるp38 MAPKリン酸化の亢進が観察された。一方,パルス超音波の照射により,C2C12筋管細胞の細胞径,筋原線維タンパク質と細胞生存率が対照群レベルに保持された。さらにLPS添加で上昇した筋管細胞内のp38 MAPKのリン酸化は,パルス超音波照射により抑制された。

【結論】

0.5 W/cm2のパルス超音波照射は,LPS誘導性の筋管細胞径と筋原線維タンパク質の減少を抑制した。また,LPS添加によるp38 MAPKリン酸化の亢進もパルス超音波照射により抑制された。これらの結果からパルス超音波照射により炎症刺激に応答するp38 MAPKのリン酸化を抑制することで悪液質性筋萎縮を予防できることが明らかとなった。本研究での成果からパルス超音波照射は悪液質性筋萎縮を予防する治療手段の一つとなり得ることが示唆された。