第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題口述
(基礎)12

2016年5月28日(土) 16:00 〜 17:00 第6会場 (札幌コンベンションセンター 2階 小ホール)

座長:中野治郎(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科保健学専攻)

[O-KS-12-4] 関節不動がラット前十字靱帯のコラーゲンアイソフォームの発現量におよぼす影響

田中なつみ1, 吉田菜津希2, 本田祐一郎3, 坂本淳哉1, 中野治郎1, 沖田実4 (1.長崎大学大学院医歯薬学総合研究科保健学専攻理学・作業療法学講座理学療法学分野, 2.長崎大学医学部保健学科理学療法学専攻, 3.長崎大学病院リハビリテーション部, 4.長崎大学大学院医歯薬学総合研究科医療科学専攻リハビリテーション科学講座運動障害リハビリテーション学分野)

キーワード:関節不動, 前十字靱帯, コラーゲンアイソフォーム

【目的】

関節不動によって惹起される拘縮の責任病巣としては,皮膚や骨格筋,靭帯,関節包などの関節周囲軟部組織のすべてが関与していると考えられている。しかし,先行研究を概観すると靱帯に関しては一定の見解は示されておらず,中でも報告が多い力学的検索では,関節不動によって靱帯は脆弱化することが明らかとなっており,このことから拘縮に対する靱帯の関与は否定的な見解が多い。しかし,靱帯を構成するコラーゲンそのものの検索はほとんど行われておらず,拘縮に対する靱帯の関与を明らかにする意味でも解決すべき課題と思われる。そこで本研究では,関節不動がラット前十字靱帯のコラーゲンアイソフォームの発現量におよぼす影響を分子生物学的検索を通して検討した。

【方法】

12週齢のWistar系雄性ラット21匹を両側股・膝関節を最大屈曲位にてギプス包帯で2,4週間不動化する不動群(n=12,不動2週;n=6,不動4週;n=6)と,不動群と同週齢まで通常飼育する対照群(n=9,14週齢;n=5,16週齢;n=4)に振り分けた。各不動期間終了後は,麻酔下で側臥位としたラットの股関節を90°屈曲位に固定し,下腿遠位端後面に張力計の先端部をあて,0.3Nの張力で膝関節を他動的に伸展させた際の可動域を測定した。次いで,各群のラットから前十字靱帯を採取し,RNA later(Ambion)に浸漬後,RNeasy Fibrous Tissue Mini Kit(QIAGEN)を用いてmRNAを抽出し,Quanti Tect Reverse Transcription Kit(QIAGEN)を使用してcDNAを作製した。そして,Brilliant III Ultra-Fast SYBR Green QPCR Master Mix(Agilent)を添加し,Mx3005p QPCR System(Strata gene)を使用したreal time RT-PCR法に供し,靱帯の主要なコラーゲンアイソフォームであるタイプI・IIIコラーゲンならびに内因性コントロールに用いるβ-actinそれぞれのmRNA発現量を検索した。統計処理には対応のないt検定を適用し,有意水準はすべて5%未満とした。

【結果】

膝関節伸展可動域は不動2,4週後とも不動群は対照群より有意に低値を示し,不動期間で比較すると不動4週は不動2週より有意に低値を示した。一方,タイプI・IIIコラーゲンmRNA発現量は不動2,4週後とも不動群は対照群より有意に低値を示したが,不動期間による有意差は認められなかった。

【結論】

今回の結果から,関節不動によって膝関節屈曲拘縮が惹起され,不動期間が長いほどその程度は顕著になることが示唆された。一方,タイプI・IIIコラーゲンmRNA発現量は関節不動によって減少することが明らかとなった。靱帯に対する関節不動の影響を検討した先行研究を概観すると,力学的検索では靱帯の脆弱化が示されており,形態学的検索では靱帯の横断面積は減少することが明らかになっている。つまり,本研究の結果はこれらのことを分子生物学的に裏付けていると推察され,前十字靱帯は膝関節屈曲拘縮の責任病巣としてさほど重要な影響をおよぼしていない可能性が示唆された。