第51回日本理学療法学術大会

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一般演題口述

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題口述
(基礎)13

Sat. May 28, 2016 5:10 PM - 6:10 PM 第6会場 (札幌コンベンションセンター 2階 小ホール)

座長:弓削類(広島大学大学院 医歯薬保健学研究科 基礎医学部門 生体環境適応科学教室)

[O-KS-13-3] 老齢期に脊髄前角細胞が多く残されると筋の収縮能力を維持するのか?

武本秀徳1, 今北英高2, 金村尚彦3, 国文貴徳3, 藤巻康一郎1, 松本知也4, 森信繁5 (1.県立広島大学保健福祉学部, 2.畿央大学理学療法学科, 3.埼玉県立大学保健医療福祉学部, 4.広島大学医学部, 5.高知大学医学部)

Keywords:加齢, 脊髄前角細胞, 筋機能

【はじめに,目的】

加齢に伴う筋線維の損失と萎縮は,筋機能を低下させ身体活動を制限する。脊髄前角細胞(VMN)の加齢に伴う減少は,筋線維の細胞死や速筋線維の遅筋化を誘導することでこの筋の退行性変化に関与するとされる。加齢の影響は個体ごとに異なるため,老齢期に残されたVMN数は個体差が大きいと予想される。本研究の目的は,老齢期にVMNが多く残されることが筋の収縮力維持につながるのか検証することである。

【方法】

8-9ヶ月齢のWisitar系雄性ラットを12または24ヶ月齢まで飼育し,それぞれ成獣群(n=15),老齢群(n=14)とした。1日のカロリー摂取量は70 Kcalとし,無制限な食事による余命短縮を避けた。飲水は制限しなかった。実験終了時に安楽死させ,長指伸筋(EDL,速筋・遅筋線維が混在)およびヒラメ筋(主に遅筋線維で構成)の摘出と張力測定を行った。また,腰髄の横断切片を作成しVMN数を計測した。このVMN数の計測結果から,老齢群をさらに老齢 多VMN群,老齢 少VMN群の2群に分けた(いずれもn=7)。最後に,成獣,老齢の2群間,そして 成獣,老齢 多VMN,老齢 少VMNの3群間で,VMN数と筋の収縮力を比較した。

【結果】

カロリー制限があっても実験終了時には成獣,老齢両群の体重は増加していた(p<0.01)。加齢はVMNを減少させたが,老齢群内にはその数に有意差を持つ2つの群があった:成獣群より老齢群は低値をとった(p<0.05)。老齢 少VMN群は成獣(p<0.01),老齢 多VMN(p<0.05)の両群より低値を示したが,成獣群と老齢 多VMN群の間に差は無かった(p>0.05)。老齢期において,残存するVMN数と筋の収縮力に関連はなかった:EDLの張力は,老齢群の方が成獣群よりむしろ大きな値を示した(p<0.05)。成獣,老齢 多VMN,老齢 少VMNの3群間に差はなかった(p>0.05)。ヒラメ筋の張力は,成獣群より老齢群の方が低かった(p<0.05)。成獣,老齢 多VMN,老齢 少VMNの3群間では,成獣と老齢 少VMN群の間でのみ差があり後者の方が低値だった(p<0.05)。老齢 多VMN群の値は他の2群とも差がなかったが(p>0.05),老齢 少VMN群の値に近似した。

【結論】

老齢期にVMNが多く残されても筋の収縮力維持には関与しないようだ。この結論は,VMN数が維持された群ではなくVMNが減少した群の変化から得られた:筋機能の低下は速筋・遅筋線維の混在筋にはなく,むしろ遅筋線維主体の筋で見られた。この知見は一般的な見解とは対立している。今回の結果は,飼育条件,特にカロリー制限に起因して生じた可能性があり,今後検証する必要がある。