第51回日本理学療法学術大会

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一般演題口述

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題口述
(基礎)14

Sat. May 28, 2016 6:20 PM - 7:20 PM 第6会場 (札幌コンベンションセンター 2階 小ホール)

座長:椿淳裕(新潟医療福祉大学)

[O-KS-14-3] 一過性の上肢の有酸素性運動が血管内皮機能の及ぼす影響

石川みづき1,3, 三浦哉2, 田村靖明3, 橋本祐司1,3, 東亜弥子3 (1.鴨島病院リハビリテーション部, 2.徳島大学大学院SAS研究部, 3.徳島大学大学院総合科学教育部)

Keywords:上肢有酸素性運動, 血管内皮機能, 血流依存性血管拡張反応

【はじめに,目的】

運動習慣のある成人は運動習慣のない成人と比較して大動脈脈波伝播速度(PWV)は顕著に遅く,動脈機能が高いことが示されている。また,一過性の持久的運動直後に動脈コンプライアンスの増加および動脈スティフネスの低下が報告されており,全身持久的な運動はEndothelin-1(ET-1)の産生低下を促し,さらに継続的に運動することで動脈柔軟性の改善に繋がることが明らかにされている。

一般的な持久的運動は下肢中心の運動であるが,下肢中心の持久的運動の実施が困難な者は,上肢を中心とした持久的運動を実施することが一般的である。この一過性の上肢運動では,PWVは増加することが報告されているが,PWVの指標は,収縮期血圧の影響を受けることから,上肢運動によるPWVの増加は本来の動脈機能の低下によるものなのか,血圧に影響をうけたためなのかは明らかになっていない。

そこで本研究では,血管内皮機能の指標となる血流依存性血管拡張反応検査を用いて,上肢の一過性の有酸素性運動が上腕動脈の血管内皮機能に及ぼす影響について検討した。



【方法】

被験者は,喫煙習慣のない健康な成人男性6名(年齢;27.8±3.7歳,身長;175.2±5.2cm,体重;70.5±2.8kg,BMI;23.0±1.9kg・m-2)であった。自転車エルゴメーターを用い,上肢クランク運動時の50%VO2maxの強度で20分間の上肢クランク運動を実施した。全ての被験者は,上腕収縮期・拡張期血圧(SBP・DBP),心拍数(HR)および上腕動脈の血流依存性血管拡張反応(FMD)を上肢クランク運動前(Pre),終了直後(Post 0),30分後(Post 30)および60分後(Post 60)にそれぞれ測定した。

統計解析は,上肢運動前後での各測定項目の比較には一元配置分散分析,事後検定としてTukey法による多重比較検定を行い,有意水準は5%未満とした。



【結果】

HRおよびFMDはPreと比較してPost 0より増加し,その後,低下する傾向にあり,HRはPre(66.7±6.6bpm)とPost 0(79.8±14.3bpm)の間,FMDはPre(6.5±0.3%)とPost 0(8.8±1.6%)およびPost 0とPost 60(6.4±0.7%)の間に有意な差が認められた(p<0.05)。一方,SBPおよびDBPに関しては,PreとPostとの間に顕著な変化は認められなかった。

このように一過性の上肢クランク運動により,FMDの増加が生じる原因として,上腕動脈の局所的な血流量の増加に伴うshear stressの増加から,血管内皮細胞由来の血流依存性血管拡張物質である一酸化窒素(NO)の増加,血管収縮物質であるET-1の産生抑制の影響が考えられる。一方,下肢中心の自転車こぎ運動などと比較して,本研究で実施した上肢中心の運動は活動筋群が少ないために,上腕の血管内皮機能の変化が少ない可能性が考えられる。

【結論】

一過性の上肢クランク運動は,上腕のFMDの増加を引き起こすことが明らかになった。したがって,習慣的な上肢クランク運動は血管内皮機能の維持,また,心血管リスクの軽減に繋がる可能性が示唆された。