[O-KS-16-5] 中足趾節関節の可動域制限が階段降段動作時の非制限側下肢関節運動に及ぼす影響
Keywords:中足趾節関節, 降段動作, バイオメカニクス
【はじめに,目的】
中足趾節(以下,MTP)関節の可動域制限は,歩行において歩幅の減少や下肢関節運動の変化を引き起こす。日常生活で頻繁に行われる階段降段動作においても,MTP関節の可動域制限は,下肢関節運動に何らかの影響を及ぼすと考えられるが,そのような報告は渉猟する限り見当たらない。また,足底腱膜炎や扁平足はMTP関節の伸展制限をきたすことが多い。
そこで本研究では,非制限側に着目し,MTP関節の可動域制限が階段降段動作時の下肢関節運動に及ぼす影響を明らかにし,MTP関節可動域制限を有する者に対する理学療法プログラム立案の一助とすることを目的に実施した。
【方法】
被験者は体幹,下肢に重篤な整形外科的既往および現病歴を有さない健常若年者9人(男性5人,女性4人)であった。被験者はMTP関節の可動域を制限しない通常条件(以下,条件N)と,スプリントシート(ポリフォーム,酒井医療社製)製の足底板により,右側のMTP関節の可動域を制限した条件(以下,条件R)の2条件で,4段構成の階段(蹴上げ170[mm],踏面300[mm])で,左側からの1足1段の前向き降段動作を行った。解析は左下肢の3段目での立脚期後半から両脚支持期開始までを対象とした。運動学的データは3次元動作解析システム(Vicon Motion Systems社製),運動力学的データは床反力計(テック技販社製)8基を用い,得られたデータから関節角度,関節モーメント(体重で正規化),身体重心座標を算出した。統計学的解析には統計ソフトウェアSPSS Ver.22.0(日本アイ・ビー・エム社製)を用いて,Shapiro-Wilk検定によりデータに正規性が認められることを確認し,対応のあるt検定を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】
制限側接床時の足関節底屈角度は,条件Nで24.5±4.3[deg],条件Rで17.9±4.0[deg],身体重心鉛直下方向速度は,条件Nで0.76±0.07[m/s],条件Rで0.67±0.09[m/s]と,いずれも条件Rが有意に低値を示した(p<0.01)。また,非制限側の足関節底屈モーメント平均値は,条件Nで0.65±011[N・m/kg],条件Rで0.75±0.10[N・m/kg]と,条件Rが有意に高値を示した(p<0.01)。
【結論】
条件Rでは制限側接床時の足関節底屈角度が低値を示した。本研究よりMTP関節の可動域が制限された階段降段動作では足関節底屈角度を減少させ,素早く広い支持基底面を確保する戦略を選択していることが示唆された。また,条件Rで非制限側の足関節底屈モーメントは高値を示した。制限側接床時の足関節底屈角度の減少は,接床時の衝撃を十分に吸収できないため,これを回避するために上段に残る非制限側の足関節底屈モーメントを増大させて身体重心の下降を制御し,接床時の衝撃を抑えていることが示唆された。以上より,MTP関節の可動域制限を有する者の理学療法は制限側だけでなく,非制限側における身体重心の下降制御機能にも着目することの重要性が示唆された。
中足趾節(以下,MTP)関節の可動域制限は,歩行において歩幅の減少や下肢関節運動の変化を引き起こす。日常生活で頻繁に行われる階段降段動作においても,MTP関節の可動域制限は,下肢関節運動に何らかの影響を及ぼすと考えられるが,そのような報告は渉猟する限り見当たらない。また,足底腱膜炎や扁平足はMTP関節の伸展制限をきたすことが多い。
そこで本研究では,非制限側に着目し,MTP関節の可動域制限が階段降段動作時の下肢関節運動に及ぼす影響を明らかにし,MTP関節可動域制限を有する者に対する理学療法プログラム立案の一助とすることを目的に実施した。
【方法】
被験者は体幹,下肢に重篤な整形外科的既往および現病歴を有さない健常若年者9人(男性5人,女性4人)であった。被験者はMTP関節の可動域を制限しない通常条件(以下,条件N)と,スプリントシート(ポリフォーム,酒井医療社製)製の足底板により,右側のMTP関節の可動域を制限した条件(以下,条件R)の2条件で,4段構成の階段(蹴上げ170[mm],踏面300[mm])で,左側からの1足1段の前向き降段動作を行った。解析は左下肢の3段目での立脚期後半から両脚支持期開始までを対象とした。運動学的データは3次元動作解析システム(Vicon Motion Systems社製),運動力学的データは床反力計(テック技販社製)8基を用い,得られたデータから関節角度,関節モーメント(体重で正規化),身体重心座標を算出した。統計学的解析には統計ソフトウェアSPSS Ver.22.0(日本アイ・ビー・エム社製)を用いて,Shapiro-Wilk検定によりデータに正規性が認められることを確認し,対応のあるt検定を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】
制限側接床時の足関節底屈角度は,条件Nで24.5±4.3[deg],条件Rで17.9±4.0[deg],身体重心鉛直下方向速度は,条件Nで0.76±0.07[m/s],条件Rで0.67±0.09[m/s]と,いずれも条件Rが有意に低値を示した(p<0.01)。また,非制限側の足関節底屈モーメント平均値は,条件Nで0.65±011[N・m/kg],条件Rで0.75±0.10[N・m/kg]と,条件Rが有意に高値を示した(p<0.01)。
【結論】
条件Rでは制限側接床時の足関節底屈角度が低値を示した。本研究よりMTP関節の可動域が制限された階段降段動作では足関節底屈角度を減少させ,素早く広い支持基底面を確保する戦略を選択していることが示唆された。また,条件Rで非制限側の足関節底屈モーメントは高値を示した。制限側接床時の足関節底屈角度の減少は,接床時の衝撃を十分に吸収できないため,これを回避するために上段に残る非制限側の足関節底屈モーメントを増大させて身体重心の下降を制御し,接床時の衝撃を抑えていることが示唆された。以上より,MTP関節の可動域制限を有する者の理学療法は制限側だけでなく,非制限側における身体重心の下降制御機能にも着目することの重要性が示唆された。