第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題口述
(基礎)17

2016年5月28日(土) 12:30 〜 13:30 第7会場 (札幌コンベンションセンター 2階 204)

座長:谷埜予士次(関西医療大学保健医療学部 臨床理学療法学教室)

[O-KS-17-1] Functional Reach Test動作時の体幹前傾角度と身体機能との関連

丹羽彩歌1, 水野公輔2, 大久保雅人3, 佐藤春彦4, 上出直人4, 柴喜崇4 (1.北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科理学療法学専攻, 2.北里大学病院リハビリテーション部, 3.北里大学院医療系研究科臨床工学群医療情報学専攻, 4.北里大学医療衛生学部)

キーワード:Functional Reach Test, 体幹前傾角度, 身体機能

【はじめに,目的】動的バランスとは支持基底面が変化する重心移動を行うために必要な能力であり,年齢や筋力などの総合的な身体機能の要素が関わっている(塩田,2009)。なお動的バランスは,足圧中心(Center of Pressure;COP)移動距離によって反映され,DuncanらによるFunctional Reach Test(FRT)や,PodsiadloらによるTimed Up and Go test(TUG)が広く用いられている。しかし,FRTはCOPの移動距離との間に有意な相関が見られなかったとし,動的バランスの指標としての有意性が問われている現状がある(前岡,2006)。そこで,我々はFRT測定において,上肢リーチ距離ではなく体幹前後傾斜角度に着目し,体幹を前傾できるほど動的バランス能力が高いという仮説を立てた。なお,体幹傾斜角度はスマートフォンに内蔵されているセンサを用いて簡便に測定できることが報告されており,FRT時の体幹傾斜角度が最大移動距離よりも動的バランスを反映することが示されることで,環境にとらわれず動的バランスを測定できると考えた。

【方法】対象は自立高齢者39名(男性2名,女性37名,平均年齢:73.4±15.6歳)とした。動的バランスとして,FRT時の前方移動距離と体幹傾斜角度,およびTUGを測定し,その他の身体機能として,握力,等尺性膝伸展筋力,10m快適歩行時間,および10m最大努力歩行時間を測定した。体幹傾斜角度は,先行研究に準拠しスマートフォンを体幹(胸部前面)に固定し,FRT動作の開始時と最大リーチ時の体幹傾斜角度の変化量を算出し解析の対象とした。統計解析では,FRT動作時の前方移動距離と体幹傾斜角度,およびTUGに着目して,測定項目ごとの関係についてSpearmanの順位相関係数を算出して検討した。なお,統計学的有意水準は危険率5%未満とした。

【結果】FRT動作時の体幹傾斜角度と,年齢(rs=-0.327)およびTUG(rs=-0.325)に有意な負の相関関係が認められ,FRT動作時に体幹が前傾できる人ほど,年齢が若く,TUGの所要時間も短いことが示された。一方で,FRT動作時の前方移動距離に関しては,全ての項目と有意な相関関係は認められなかった。

【結論】FRT動作時の体幹前傾角度が,動的バランス能力の指標であるTUGと関連したことから,我々の仮説が実証されたと考える。しかし,TUGとの相関は決して高いとは言えず,FRT動作時の体幹傾角度は,TUGと関連しながらも,完全に同一の要素を評価しているわけではないことが示された。バランス能力の臨床的評価指標には多くの考え方があり,様々な測定機器や評価方法が考案されており,多面的に捉えることが重要であるといえる。今回の結果から,FRT動作時の体幹傾斜角度もバランス能力の指標として有用である可能性が考えられ,今後,FRT動作時の体幹傾斜角度と加齢や転倒との関連などを明らかにすることが重要である。