[O-KS-18-5] 二重課題下における高齢者の歩行特性
Keywords:二重課題, 高齢者, 歩行特性
【はじめに,目的】65歳以上の高齢者のうち,約2~3割の人は1年に1回以上転倒すると報告されている。高齢者の転倒予防や転倒予測は,健康的な生活の維持や病気の早期発見に繋がるなど極めて重要である。その中で近年,注目を浴びているのが二重課題(dual task:DT)条件下でのパフォーマンステストである。本研究では,高齢者のDT条件下における歩行特性を若年者と比較することで明らかにすることを目的とした。
【方法】健常高齢者15名(男性8名,女性7名,68.6±4.9歳)と健常大学生15名(男性8名,女性7名,20.5±1.3歳)を対象として行った。3次元動作解析装置を用い,通常の歩行(single task:ST)を3回実施した。その後,ディスプレイに映写された1桁の足し算を解答しながら歩行するDTを3回施行した。歩行中の歩幅,歩行速度,床反力,質量中心(center of mass:COM),toe clearanceの最小値(minimum toe clearance:MTC),および胸郭,脊柱,骨盤,矢状面上の利き足及び非利き足の下肢関節角度を抽出し,各群で平均値を求めSTとDTで比較した。統計学的処理として正規性を検討するためにShapiro-Wilk検定を行い,正規性が認められれば対応のあるt検定,正規性が認められなければWicoxon符号付順位和検定を用い,5%水準にて有意判定を行った。
【結果】若年者では,STに比べてDTの歩行速度(p<0.05)と初期接地時の床反力(p<0.05)の上昇を認めた。また,歩行中のCOMの最高値(p<0.0001),最低値(p<0.05)はともに有意に上方へ偏位していた。さらに,非利き足のMTCは,STに比べてDT時に有意に低下した(p<0.05)が,下肢関節角度に変化は認められなかった。一方,高齢者では非利き足の歩幅が減少した(p<0.01)。歩行中の胸郭の最大屈曲角度が有意に増加(p<0.0001)し,最大伸展角度が有意に減少(p<0.0001)した。また,terminal stance期における利き足の足関節背屈(p<0.05)とpre-swing期における利き足の足関節底屈(p<0.05)角度が有意に減少した。さらに,terminal stance期における利き足の股関節伸展角度が減少(p<0.05)した。しかし,MTCは条件間に有意な差は認められなかった。
【結論】STに比べてDT下での歩行特性の変化は若年群とは異なるものであった。本研究の結果から,高齢者のDTの歩行特性として,計算課題へ注意が注がれることで,体重心が前方に偏位し,立脚後期における股関節の伸展や足関節の底背屈,歩幅の減少に影響したと考えられる。一方,MTCは若年者ではDT下で非利き足のMTCが低下したにもかかわらず,高齢者では変化が認められなかった。高齢者はつまずきに対する警戒心が強く,障害物をまたぐ動作においてsafety marginを大きく取ることが報告されている。また,計算課題の難易度が1桁の足し算と比較的容易な課題であったため,MTCを低下させるには至らなかったものと推察する。
【方法】健常高齢者15名(男性8名,女性7名,68.6±4.9歳)と健常大学生15名(男性8名,女性7名,20.5±1.3歳)を対象として行った。3次元動作解析装置を用い,通常の歩行(single task:ST)を3回実施した。その後,ディスプレイに映写された1桁の足し算を解答しながら歩行するDTを3回施行した。歩行中の歩幅,歩行速度,床反力,質量中心(center of mass:COM),toe clearanceの最小値(minimum toe clearance:MTC),および胸郭,脊柱,骨盤,矢状面上の利き足及び非利き足の下肢関節角度を抽出し,各群で平均値を求めSTとDTで比較した。統計学的処理として正規性を検討するためにShapiro-Wilk検定を行い,正規性が認められれば対応のあるt検定,正規性が認められなければWicoxon符号付順位和検定を用い,5%水準にて有意判定を行った。
【結果】若年者では,STに比べてDTの歩行速度(p<0.05)と初期接地時の床反力(p<0.05)の上昇を認めた。また,歩行中のCOMの最高値(p<0.0001),最低値(p<0.05)はともに有意に上方へ偏位していた。さらに,非利き足のMTCは,STに比べてDT時に有意に低下した(p<0.05)が,下肢関節角度に変化は認められなかった。一方,高齢者では非利き足の歩幅が減少した(p<0.01)。歩行中の胸郭の最大屈曲角度が有意に増加(p<0.0001)し,最大伸展角度が有意に減少(p<0.0001)した。また,terminal stance期における利き足の足関節背屈(p<0.05)とpre-swing期における利き足の足関節底屈(p<0.05)角度が有意に減少した。さらに,terminal stance期における利き足の股関節伸展角度が減少(p<0.05)した。しかし,MTCは条件間に有意な差は認められなかった。
【結論】STに比べてDT下での歩行特性の変化は若年群とは異なるものであった。本研究の結果から,高齢者のDTの歩行特性として,計算課題へ注意が注がれることで,体重心が前方に偏位し,立脚後期における股関節の伸展や足関節の底背屈,歩幅の減少に影響したと考えられる。一方,MTCは若年者ではDT下で非利き足のMTCが低下したにもかかわらず,高齢者では変化が認められなかった。高齢者はつまずきに対する警戒心が強く,障害物をまたぐ動作においてsafety marginを大きく取ることが報告されている。また,計算課題の難易度が1桁の足し算と比較的容易な課題であったため,MTCを低下させるには至らなかったものと推察する。