[O-KS-19-4] 起き上がり動作における呼吸運動分析
動作開始時に着目して
キーワード:起き上がり動作, 動作開始時, 呼吸運動
【はじめに,目的】
急性期理学療法において,開腹術後症例のリハビリテーションが処方されることが多くなっている現状に伴い,離床時の術創部周囲の疼痛が問題となる場面も散見される。我々は第48・49回日本理学療法学術大会にて,腹部手術(腎生検と鼠径ヘルニア修復術)後症例に対する起き上がり動作時の術創部疼痛軽減を目的に呼吸運動の指導効果について,呼気運動を促すことで術創部疼痛が軽減したことを報告した。しかし,術創部の疼痛が軽減した要因を探るにあたり,その指導前の呼吸状態,つまり,日常での起き上がり動作における呼吸状態を考慮する必要性があった。そこで,本研究では健常成人における起き上がり動作時の呼吸状態について動作開始時に着目し調査した。
【方法】
対象者は起き上がり動作に影響する疾患の既往および,動作時に腰背痛などの疼痛が無い健常成人112名(男性59名,女性53名,平均23.4±6.5歳)であった。課題動作は背臥位から端座位までの起き上がり動作とし,背臥位にて安静呼吸を3回以上行わせ,その後に自由意志で起き上がり動作を開始させた。測定中ノーズクリップで鼻孔を閉鎖し,気流が漏れないように呼吸フローセンサーを口にくわえさせた。呼吸フローセンサーの信号をAD変換し,サンプリング周波数1,000Hzでパーソナルコンピューター(以下,PC)に取り込んだ。そのデータから呼吸曲線を作図し,安静呼気位と安静吸気位から一回換気量を算出した。また,後頭部直下にスイッチを設け,起き上がり動作開始となる頭部拳上時の信号も同期させPCに取り込んだ。対象者には起き上がり動作を2回実施させ,その2回の頭部拳上時の呼吸換気量における一回換気量に対する割合の平均値が50%以上を吸気位,50%未満を呼気位と定義した。頭部挙上時の呼吸換気量がその吸気位と判断された人数と呼気位と判断された人数の割合について,χ2検定を用いて解析した。なお,統計学的有意水準を5%とした。
【結果】
起き上がり動作開始(頭部挙上)時の呼吸換気量から見た呼吸状態は,吸気位が91人(81.2%),呼気位が21人(18.8%)で,吸気位の割合が呼気位よりも有意に多かった(p<0.01)。
【結論】
起き上がり動作開始時の呼吸状態は,一回換気量の50%以上である吸気位であった。吸気位では横隔膜が収縮降下し,腹筋群が伸長されることが考えられる。起き上がり動作は,頭部挙上の次に起こる体幹屈曲運動を要し,その主動筋で,かつ最も活動する筋の1つが腹筋群である。筋長と張力の関係から筋が伸長位の場合,筋の静止張力が多く発生し,活動張力を減少できることが言われている。そのため,腹筋群を伸長位にし,その腹筋群の活動張力を最小限にするため,本研究における起き上がり動作開始時の呼吸状態を吸気位にしていたと考えられる。今後は,起き上がり動作終了までの呼吸状態や高齢者においても同様に調査する必要性が考えられた。
急性期理学療法において,開腹術後症例のリハビリテーションが処方されることが多くなっている現状に伴い,離床時の術創部周囲の疼痛が問題となる場面も散見される。我々は第48・49回日本理学療法学術大会にて,腹部手術(腎生検と鼠径ヘルニア修復術)後症例に対する起き上がり動作時の術創部疼痛軽減を目的に呼吸運動の指導効果について,呼気運動を促すことで術創部疼痛が軽減したことを報告した。しかし,術創部の疼痛が軽減した要因を探るにあたり,その指導前の呼吸状態,つまり,日常での起き上がり動作における呼吸状態を考慮する必要性があった。そこで,本研究では健常成人における起き上がり動作時の呼吸状態について動作開始時に着目し調査した。
【方法】
対象者は起き上がり動作に影響する疾患の既往および,動作時に腰背痛などの疼痛が無い健常成人112名(男性59名,女性53名,平均23.4±6.5歳)であった。課題動作は背臥位から端座位までの起き上がり動作とし,背臥位にて安静呼吸を3回以上行わせ,その後に自由意志で起き上がり動作を開始させた。測定中ノーズクリップで鼻孔を閉鎖し,気流が漏れないように呼吸フローセンサーを口にくわえさせた。呼吸フローセンサーの信号をAD変換し,サンプリング周波数1,000Hzでパーソナルコンピューター(以下,PC)に取り込んだ。そのデータから呼吸曲線を作図し,安静呼気位と安静吸気位から一回換気量を算出した。また,後頭部直下にスイッチを設け,起き上がり動作開始となる頭部拳上時の信号も同期させPCに取り込んだ。対象者には起き上がり動作を2回実施させ,その2回の頭部拳上時の呼吸換気量における一回換気量に対する割合の平均値が50%以上を吸気位,50%未満を呼気位と定義した。頭部挙上時の呼吸換気量がその吸気位と判断された人数と呼気位と判断された人数の割合について,χ2検定を用いて解析した。なお,統計学的有意水準を5%とした。
【結果】
起き上がり動作開始(頭部挙上)時の呼吸換気量から見た呼吸状態は,吸気位が91人(81.2%),呼気位が21人(18.8%)で,吸気位の割合が呼気位よりも有意に多かった(p<0.01)。
【結論】
起き上がり動作開始時の呼吸状態は,一回換気量の50%以上である吸気位であった。吸気位では横隔膜が収縮降下し,腹筋群が伸長されることが考えられる。起き上がり動作は,頭部挙上の次に起こる体幹屈曲運動を要し,その主動筋で,かつ最も活動する筋の1つが腹筋群である。筋長と張力の関係から筋が伸長位の場合,筋の静止張力が多く発生し,活動張力を減少できることが言われている。そのため,腹筋群を伸長位にし,その腹筋群の活動張力を最小限にするため,本研究における起き上がり動作開始時の呼吸状態を吸気位にしていたと考えられる。今後は,起き上がり動作終了までの呼吸状態や高齢者においても同様に調査する必要性が考えられた。