[O-KS-21-2] 複雑性の異なる手指対立運動の運動イメージが上肢脊髄神経機能の興奮性に及ぼす影響
―イメージ明瞭性の違いによる検討―
キーワード:運動イメージ, F波, 脊髄神経機能
【はじめに,目的】
運動イメージは,随意運動が困難な患者に対して身体的な負荷を増加することなく中枢レベルでの運動を反復できる有効な手段の一つとして考えられている。しかしながら,運動イメージの想起能力には個人差があり,これが運動イメージの効果に影響する可能性がある。そこで,本研究の目的は,運動イメージ想起能力の1つであるイメージ明瞭性の個人差が,複雑性の異なる課題における上肢脊髄神経機能の興奮性の違いにどのように影響を及ぼすのかについて,F波を用いて検討することとした。
【方法】
対象は健常者30名(平均年齢24.1±3.6歳)とした。イメージ明瞭性の評価はVividness of Movement Imagery Questionnaire(VMIQ)を用い,得点の中央値からイメージ明瞭性の高い群,低い群に各15名ずつふりわけた。VMIQは24の行動項目に対して三人称および一人称イメージの明瞭性を測定する質問紙である。評定は5段階で,合計点が低いほどイメージ明瞭性が高いことを示している。F波はViking Quest(Nicolet)を用いて測定した。検査姿勢は背臥位とし,運動イメージ試行中は身体を動かさないように指示した。F波導出の刺激条件は強度を最大上刺激,頻度を0.5Hz,持続時間を0.2msとして,右手関節部正中神経を連続30回刺激した。記録条件として探査電極は右母指球筋の筋腹上,基準電極は右母指基節骨上に配置した。F波の分析項目は振幅F/M比,出現頻度とした。運動イメージ課題は複雑性の異なる3種類の右手指の対立運動とし,メトロノームを利用して聴覚音を手がかりに1Hzの頻度で実施した。課題1では右母指と示指の対立運動の運動イメージを実施した。課題2では右母指と他指との対立運動の運動イメージを示指,中指,環指,小指の順で実施した。課題3では右母指と他指との対立運動の運動イメージを示指,環指,中指,小指の順で実施した。検討項目は各群における安静試行と各課題の振幅F/M比,出現頻度の変化をFriedman検定とBonferroni補正したWilcoxonの符号付順位検定を用いて比較した。有意水準は5%とした。
【結果】
振幅F/M比はイメージ明瞭性の低い群において安静試行と比較して各課題で有意に増加した(p<0.05)。出現頻度は各群ともに安静試行と比較して有意差を認めなかった。
【結論】
F波は運動神経軸索の末梢部での刺激によるα運動ニューロンの逆行性興奮に由来すると考えられており,振幅F/M比はα運動ニューロンの興奮性の一つといわれている。結果より,今回の運動イメージ課題では,イメージ明瞭性の低い群において各課題とも安静試行と比較して上肢脊髄神経機能の興奮性が増大した。本研究により,運動イメージを臨床応用する際には,対象者のイメージ想起能力を考慮した上で課題を設定する必要があることが示唆された。
運動イメージは,随意運動が困難な患者に対して身体的な負荷を増加することなく中枢レベルでの運動を反復できる有効な手段の一つとして考えられている。しかしながら,運動イメージの想起能力には個人差があり,これが運動イメージの効果に影響する可能性がある。そこで,本研究の目的は,運動イメージ想起能力の1つであるイメージ明瞭性の個人差が,複雑性の異なる課題における上肢脊髄神経機能の興奮性の違いにどのように影響を及ぼすのかについて,F波を用いて検討することとした。
【方法】
対象は健常者30名(平均年齢24.1±3.6歳)とした。イメージ明瞭性の評価はVividness of Movement Imagery Questionnaire(VMIQ)を用い,得点の中央値からイメージ明瞭性の高い群,低い群に各15名ずつふりわけた。VMIQは24の行動項目に対して三人称および一人称イメージの明瞭性を測定する質問紙である。評定は5段階で,合計点が低いほどイメージ明瞭性が高いことを示している。F波はViking Quest(Nicolet)を用いて測定した。検査姿勢は背臥位とし,運動イメージ試行中は身体を動かさないように指示した。F波導出の刺激条件は強度を最大上刺激,頻度を0.5Hz,持続時間を0.2msとして,右手関節部正中神経を連続30回刺激した。記録条件として探査電極は右母指球筋の筋腹上,基準電極は右母指基節骨上に配置した。F波の分析項目は振幅F/M比,出現頻度とした。運動イメージ課題は複雑性の異なる3種類の右手指の対立運動とし,メトロノームを利用して聴覚音を手がかりに1Hzの頻度で実施した。課題1では右母指と示指の対立運動の運動イメージを実施した。課題2では右母指と他指との対立運動の運動イメージを示指,中指,環指,小指の順で実施した。課題3では右母指と他指との対立運動の運動イメージを示指,環指,中指,小指の順で実施した。検討項目は各群における安静試行と各課題の振幅F/M比,出現頻度の変化をFriedman検定とBonferroni補正したWilcoxonの符号付順位検定を用いて比較した。有意水準は5%とした。
【結果】
振幅F/M比はイメージ明瞭性の低い群において安静試行と比較して各課題で有意に増加した(p<0.05)。出現頻度は各群ともに安静試行と比較して有意差を認めなかった。
【結論】
F波は運動神経軸索の末梢部での刺激によるα運動ニューロンの逆行性興奮に由来すると考えられており,振幅F/M比はα運動ニューロンの興奮性の一つといわれている。結果より,今回の運動イメージ課題では,イメージ明瞭性の低い群において各課題とも安静試行と比較して上肢脊髄神経機能の興奮性が増大した。本研究により,運動イメージを臨床応用する際には,対象者のイメージ想起能力を考慮した上で課題を設定する必要があることが示唆された。