第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題口述
(基礎)21

2016年5月29日(日) 11:10 〜 12:10 第6会場 (札幌コンベンションセンター 2階 小ホール)

座長:平岡浩一(大阪府立大学)

[O-KS-21-5] 腱振動刺激による運動錯覚を橈骨遠位端骨折術後翌日に惹起させた時の脳活動―脳波を用いて―

今井亮太1,2, 大住倫弘3, 信迫悟志3, 森岡周1,3 (1.畿央大学大学院健康科学研究科神経リハビリテーション学研究室, 2.河内総合病院リハビリテーション部, 3.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター)

キーワード:腱振動刺激, 運動錯覚, 脳波

【はじめに,目的】橈骨遠位端骨折術後翌日より,腱振動刺激による運動錯覚を惹起させることで,痛みを伴わない患部の運動の仮想体験をすることができ,痛みやそれに伴う不安・破局的思考,関節可動域制限が改善することが明らかされている(Imai, 2015)。運動関連脳領域の活性化は疼痛抑制をもたらすことから,運動錯覚による運動関連脳領域の活性化が術後の痛みを軽減させたことが想定される。しかしながら,橈骨遠位端骨折術患者が運動錯覚を惹起している時,実際に運動錯覚に関連する脳領域が活性化しているのかは検証されていない。そこで本研究では,橈骨遠位端骨折術後翌日での腱振動刺激による運動錯覚によって,運動関連脳領域を活性化させることができるのかを脳波を用いて検討することとした。


【方法】対象者は右橈骨遠位端骨折後,当院で手術を施行した2名であった。振動刺激にはコードレスハンドマッサージャー(YCM-20,70Hz)を用いた。運動錯覚はImaiらの手法を用い,閉眼,安静座位姿勢で両手掌を合わせ,非罹患肢の手関節総指伸筋腱の手関節部に振動刺激を行い,手術側の運動錯覚を想起させた。プロトコルは,安静10秒―課題30秒とし,3回連続で実施した。運動錯覚を経験した際の錯覚強度をVerbal Rating Scaleを用いて6段階評価した。錯覚角度は非術側で再現し,画像解析ソフトimage jで測定した。また,振動刺激の前後にVisual Analogue Scaleを用いて安静時痛と運動時痛の評価を行った。脳波測定は高機能デジタル脳波計Active tow system(Biosemi社製)を用い,電極配置は国際10-20法に準拠した32chにて,sampling周波数1024Hzで行った。解析にはEMSE Suite(Source Signal Imaging社)を用い,安静時と振動刺激時のパワースペクトル解析(High-α波帯域:10-12Hz)を行った。Band pass filterは1-70Hzとし,独立成分分析を用いて瞬目によるアーチファクトを除去した。


【結果】2名の対象者は運動錯覚を惹起し,症例Aは運動錯覚角度12.6,錯覚強度4であった。また安静時痛は67mmから50mm,運動時痛は64mmから46mmと低下した。症例Bは運動錯覚角度22.4,錯覚強度4であった。また安静時痛は31mmから12mm,運動時痛は61mmから50mmと低下した。また,2症例とも,安静時に比べ,振動刺激時にC3またはC4チャネルを中心とした左右感覚運動領域においてHigh-αの減衰を認めた。


【結論】橈骨遠位端骨折術後患者の運動錯覚中おいて,運動実行・運動錯覚に関連のあるα波の減衰が両側感覚運動領域に認められた。この結果から,術後翌日で痛みが強く,また運動が困難な患者においても腱振動刺激による運動錯覚を用いることで感覚運動関連領域の活動が得られることが明らかにされた。痛みの慢性化の要因とされる術後の痛み強度,不動や固定は神経の可塑性を引き起こすが,腱振動刺激による運動錯覚の惹起により大脳皮質の不適切な可塑的変化を防ぐことができると考えられる。