[O-KS-23-1] 日本列島諸集団における下腿部長骨骨幹部の形態学的検討
キーワード:形質人類学, 腓骨, 時代差
【はじめに,目的】
四肢長骨骨幹部の形態は運動負荷により機能適応的に変化することが指摘されており,人類学分野では,主に古人骨を対象とした検討により,狩猟採集から農耕・工業という生業活動の変化に伴い四肢長骨が華奢になり,このような傾向は男性でより顕著であることが報告されている(Ruff & Larsen, 2014)。一方で腓骨は,出土人骨では遺存しにくいこと,下腿部への全荷重のうち腓骨が担う荷重量が6-19%と少ないこと(Funk, et al., 2007)などにより,形態学的検討の対象となることは稀である。しかしながら,同じ下腿部に属しながら荷重支持機能が異なる脛骨と腓骨では,生業や時代の異なる集団間でどのような形態的な差を認めるのかは興味深い。そのため,本研究では,生業や時代の異なる集団間で脛骨と腓骨の骨幹中央断面積を比較・検討した。
【方法】
対象は縄文,弥生,中世,近世,現代人資料679体(男性379体/女性300体)である。縄文時代資料は考古学的報告に基づき,中期(3000-2000BC)と後晩期(2000-300BC)に分類した。脛骨と腓骨の断面積(tibial area:TA,fibular area:FA)は,歯科用弾性印象材を用いて各々の骨幹中央部で輪郭を投影,描画し,画像処理ソフトImage Jで計測した。比較にあたり,TAとFAはRuff, et al.,(2000)に準拠し,大腿骨頭径から求めた推定体重(Ruff, et al., 2012)で標準化し,TASTD,FASTDとした。比較にはTASTD,FASTD,FAとTAの相対値(FA/TA)を用いた。統計処理にはGames Howells法による多重比較検定を用いた。有意水準は5%,統計解析にはSPSS ver.23.0を用いた。
【結果】
男性:TASTDは縄文後晩期で最大であり,中世以降の集団より有意に大きい。他の集団間には有意差を認めない。FASTDは縄文後晩期がいずれの集団よりも有意に大きく,弥生~現代にかけて経時的に小さくなる傾向を認める。縄文中期は後晩期よりも有意に小さく,現代を除く他集団とは有意差を認めない。FA/TAは,縄文後晩期で最大であり,弥生時代以降は経時的に小さくなる傾向を示す。縄文中期は後晩期よりも有意に小さい。
女性:TASTDは縄文中期と後晩期で大きく,後晩期は中世以降の集団と有意差を認める。FASTDは縄文後晩期と弥生で大きく,男性のように縄文後晩期が突出した傾向は示さない。FA/TAは弥生が最大であり,縄文集団と他集団間に有意差は認めない。
【結論】
縄文時代と弥生時代以降では遺伝的に差があるため両者を分けて比較をして考えても,特に男性で,弥生時代以降のFASTDの減少幅がTASTDよりも大きく,FA/TAが経時的に減少する傾向は,農耕,工業技術の発展にともなう下肢への負荷の減少の影響および,その影響が脛骨と腓骨では異なった可能性を示唆する。縄文後晩期男性でFASTDとFA/TAが顕著に大きいという傾向は,同じ狩猟採集民である縄文時代中期と後晩期の男性間,後晩期の男女間で,腓骨に負荷をかけるような活動習慣に違いがあった可能性を示唆する。
四肢長骨骨幹部の形態は運動負荷により機能適応的に変化することが指摘されており,人類学分野では,主に古人骨を対象とした検討により,狩猟採集から農耕・工業という生業活動の変化に伴い四肢長骨が華奢になり,このような傾向は男性でより顕著であることが報告されている(Ruff & Larsen, 2014)。一方で腓骨は,出土人骨では遺存しにくいこと,下腿部への全荷重のうち腓骨が担う荷重量が6-19%と少ないこと(Funk, et al., 2007)などにより,形態学的検討の対象となることは稀である。しかしながら,同じ下腿部に属しながら荷重支持機能が異なる脛骨と腓骨では,生業や時代の異なる集団間でどのような形態的な差を認めるのかは興味深い。そのため,本研究では,生業や時代の異なる集団間で脛骨と腓骨の骨幹中央断面積を比較・検討した。
【方法】
対象は縄文,弥生,中世,近世,現代人資料679体(男性379体/女性300体)である。縄文時代資料は考古学的報告に基づき,中期(3000-2000BC)と後晩期(2000-300BC)に分類した。脛骨と腓骨の断面積(tibial area:TA,fibular area:FA)は,歯科用弾性印象材を用いて各々の骨幹中央部で輪郭を投影,描画し,画像処理ソフトImage Jで計測した。比較にあたり,TAとFAはRuff, et al.,(2000)に準拠し,大腿骨頭径から求めた推定体重(Ruff, et al., 2012)で標準化し,TASTD,FASTDとした。比較にはTASTD,FASTD,FAとTAの相対値(FA/TA)を用いた。統計処理にはGames Howells法による多重比較検定を用いた。有意水準は5%,統計解析にはSPSS ver.23.0を用いた。
【結果】
男性:TASTDは縄文後晩期で最大であり,中世以降の集団より有意に大きい。他の集団間には有意差を認めない。FASTDは縄文後晩期がいずれの集団よりも有意に大きく,弥生~現代にかけて経時的に小さくなる傾向を認める。縄文中期は後晩期よりも有意に小さく,現代を除く他集団とは有意差を認めない。FA/TAは,縄文後晩期で最大であり,弥生時代以降は経時的に小さくなる傾向を示す。縄文中期は後晩期よりも有意に小さい。
女性:TASTDは縄文中期と後晩期で大きく,後晩期は中世以降の集団と有意差を認める。FASTDは縄文後晩期と弥生で大きく,男性のように縄文後晩期が突出した傾向は示さない。FA/TAは弥生が最大であり,縄文集団と他集団間に有意差は認めない。
【結論】
縄文時代と弥生時代以降では遺伝的に差があるため両者を分けて比較をして考えても,特に男性で,弥生時代以降のFASTDの減少幅がTASTDよりも大きく,FA/TAが経時的に減少する傾向は,農耕,工業技術の発展にともなう下肢への負荷の減少の影響および,その影響が脛骨と腓骨では異なった可能性を示唆する。縄文後晩期男性でFASTDとFA/TAが顕著に大きいという傾向は,同じ狩猟採集民である縄文時代中期と後晩期の男性間,後晩期の男女間で,腓骨に負荷をかけるような活動習慣に違いがあった可能性を示唆する。