第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本運動器理学療法学会 一般演題口述
(運動器)01

2016年5月27日(金) 10:00 〜 11:00 第4会場 (札幌コンベンションセンター 1階 107+108)

座長:石田和宏(我汝会 えにわ病院 リハビリテーション科)

[O-MT-01-2] 乳癌脊椎転移例の術後早期経過

―姑息的手術例と根治的手術例の比較―

黒川由貴1,3, 村上英樹3,4, 加藤仁志1,2,3,4, 八幡徹太郎1,2,3,4 (1.金沢大学附属病院リハビリテーション部, 2.金沢大学附属病院リハビリテーション科, 3.金沢大学大学院医薬保健学域総合研究科機能再建学, 4.金沢大学附属病院整形外科)

キーワード:乳癌, 脊椎転移, 手術

【はじめに,目的】乳癌は女性の癌罹患率第1位であり,10年生存率が高く,「がんと共存」する期間が長いため,後遺症や社会復帰に対する対策が重要で医学的リハビリテーションが果たす役割は大きい。乳癌は脊椎転移が多く,痛みや麻痺によりQOLを著しく低下させる。脊椎転移の中で手術適応例は,予後に基づいて姑息的手術・根治的手術が選択される。手術例は全例理学療法を実施しているが,過去に乳癌脊椎転移に対する姑息的手術と根治的手術後の経過を比較した報告はなく,手術の違いによる理学療法の方針を検討する必要がある。本研究の目的は,乳癌脊椎転移例に対する姑息的手術と根治的手術の術後早期経過を比較・検討し,特に入院中の理学療法を行う上での一助とすることである。



【方法】対象は2010年4月~2015年10月に当院で乳癌脊椎転移に対して手術が施行された女性患者21例である。(平均年齢54.1±2.4歳)。後方除圧固定術・後方固定術が施行された例を姑息的手術群(7例),腫瘍脊椎骨全摘術が施行された例を根治的手術群(14例)とした。術前後の評価は入院時と退院時に実施した。検討項目は痛み(性状・強さ・オピオイドの使用)・麻痺(改良Frankel分類)・ADL(Barthel Index:BI・Performance status Scale:PS・移動能力)とし,カルテより後方視的に調査した。各群の術前後の比較はWilcoxonの符号付き順位検定,群間の比較にはMann-Whitneyの検定とカイ二乗検定を行った(有意水準5%)。



【結果】全例痛みの改善があったが,術後に創部痛や神経痛が生じていた。オピオイドの使用と痛みの強さには術前後・群間の差はなかった。術前麻痺は9例(姑息的手術群4例,全摘群5例)にあり,改善は2例(姑息的手術群1例,根治的手術群1例)あったが,術後麻痺・髄膜播種による悪化が3例に見られた(姑息的手術群1例,根治的手術群2例)。群間比較においてBIは術前(p=0.04)術後(p=0.02),PSは術前(p=0.02)に姑息的手術群が有意に低かった。術前後の比較では根治的手術群はPSが術後は有意に悪かった(p=0.04)がBIは差がなかった。姑息的手術群は差がなかった。移動能力は姑息的手術例6例,根治的手術群12例が維持・改善しており,悪化例は術後麻痺が生じた例にあった。



【結論】術前の痛みは改善するが,術後早期には創部痛と神経痛の問題があった。Frankel分類上の麻痺改善例は少なかったが,筋力・感覚障害は改善している例もあり,長期的評価の必要性がある。姑息的手術群は術前後にBI,PSの変化はなかったが,根治的手術群はPSが有意に悪化し,BIには差がなかった。PSはBed rest時間を含めた全身状態を,BIは活動能力を評価している。つまり,姑息的手術群は臥床時間や活動能力が低下しない可能性があり,根治的手術群は術後早期では活動能力を保ちながらも臥床時間が増える傾向があると考えられ,その予防が必要である。今後長期経過での検討を含め,術後早期の臥床時間増加の原因を分析する必要がある。