[O-MT-03-6] 多肢切断者における義足歩行
エネルギー消費の観点から
キーワード:義足, 歩行, エネルギー消費量
【はじめに,目的】
下肢切断者における義足歩行時のエネルギー消費については,片側下肢切断者を中心に,様々な報告がなされている。その一方で,多肢切断者においては,歩行速度や耐久性の問題を抱える症例を経験するが,エネルギー消費や歩行効率に関する報告は少ない。今回は3例の多肢切断者における義足歩行時のエネルギー消費について報告し,多肢切断者における義足歩行の意義について考察する。
【方法】
当センターにてリハビリテーションを実施した多肢切断者3例を対象に,義足歩行時の酸素摂取量を計測した。症例Aは両上腕・両大腿切断の60歳代男性,症例Bは両大腿切断に頸髄不全損傷を合併した50歳代男性,症例Cは右大腿切断・左下腿切断の70歳代女性である。計測にはコールテックス社製携帯式呼気ガス代謝モニターメータマックス3Bを用い,安静座位5分の後,自由速度での歩行を3~5分間行った。酸素摂取量(ml/min/kg)には測定値の安定した1分間の平均値を用い,1mあたりのエネルギー消費の指標として酸素コスト(ml/kg/m),運動強度の指標としてMETsを算出した。なお,計測は歩行能力がプラトーに達した時点で実施した。
【結果】
症例Aでは歩行速度が16.2m/min,酸素摂取量が15.7ml/min/kg,酸素コストが0.9ml/kg/m,4.4METsであった。同様に症例Bでは6.3m/min,16.9ml/min/kg,2.6ml/kg/m,4.8METs,症例Cでは25m/min,16.5ml/min/kg,0.6ml/kg/m,4.7METsであった。
【結論】
一般に義足歩行時のエネルギー消費は切断部位が高位になるほど,また,一側よりも両側の切断で大きくなる。両側大腿切断の義足歩行時エネルギー消費は健常成人の280%増(Huangら)や215%増(長倉ら)になるなどの報告がある。今回の症例A-Cについても,先行研究における健常者の快適歩行時の酸素コストと比較すると,それぞれ,約4.5倍,13倍,3.2倍となっていた。METsについては,3例ともに4~5METsで一定しており,多肢切断者の義足歩行が健常者における速歩や軽運動と同程度の運動強度となることが示唆された。厚生労働省は,健康づくりのために3METs以上の運動を週あたり60分程度行うことを推奨している。多肢切断者においても義足歩行により,この指標に基づいた運動が可能になると考えられる。
多肢切断者における義足歩行では,エネルギー効率の面から日常的な移動には車椅子との併用が必要である。しかし,生活場面の一部や運動手段として義足歩行を用いることで,活動範囲の拡大に加え,心肺機能の改善や生活習慣病予防につながる可能性がある。そのため,多肢切断者に関しては,実用性の有無に関わらず,積極的に義足歩行獲得へ向けた介入を行うべきである。
下肢切断者における義足歩行時のエネルギー消費については,片側下肢切断者を中心に,様々な報告がなされている。その一方で,多肢切断者においては,歩行速度や耐久性の問題を抱える症例を経験するが,エネルギー消費や歩行効率に関する報告は少ない。今回は3例の多肢切断者における義足歩行時のエネルギー消費について報告し,多肢切断者における義足歩行の意義について考察する。
【方法】
当センターにてリハビリテーションを実施した多肢切断者3例を対象に,義足歩行時の酸素摂取量を計測した。症例Aは両上腕・両大腿切断の60歳代男性,症例Bは両大腿切断に頸髄不全損傷を合併した50歳代男性,症例Cは右大腿切断・左下腿切断の70歳代女性である。計測にはコールテックス社製携帯式呼気ガス代謝モニターメータマックス3Bを用い,安静座位5分の後,自由速度での歩行を3~5分間行った。酸素摂取量(ml/min/kg)には測定値の安定した1分間の平均値を用い,1mあたりのエネルギー消費の指標として酸素コスト(ml/kg/m),運動強度の指標としてMETsを算出した。なお,計測は歩行能力がプラトーに達した時点で実施した。
【結果】
症例Aでは歩行速度が16.2m/min,酸素摂取量が15.7ml/min/kg,酸素コストが0.9ml/kg/m,4.4METsであった。同様に症例Bでは6.3m/min,16.9ml/min/kg,2.6ml/kg/m,4.8METs,症例Cでは25m/min,16.5ml/min/kg,0.6ml/kg/m,4.7METsであった。
【結論】
一般に義足歩行時のエネルギー消費は切断部位が高位になるほど,また,一側よりも両側の切断で大きくなる。両側大腿切断の義足歩行時エネルギー消費は健常成人の280%増(Huangら)や215%増(長倉ら)になるなどの報告がある。今回の症例A-Cについても,先行研究における健常者の快適歩行時の酸素コストと比較すると,それぞれ,約4.5倍,13倍,3.2倍となっていた。METsについては,3例ともに4~5METsで一定しており,多肢切断者の義足歩行が健常者における速歩や軽運動と同程度の運動強度となることが示唆された。厚生労働省は,健康づくりのために3METs以上の運動を週あたり60分程度行うことを推奨している。多肢切断者においても義足歩行により,この指標に基づいた運動が可能になると考えられる。
多肢切断者における義足歩行では,エネルギー効率の面から日常的な移動には車椅子との併用が必要である。しかし,生活場面の一部や運動手段として義足歩行を用いることで,活動範囲の拡大に加え,心肺機能の改善や生活習慣病予防につながる可能性がある。そのため,多肢切断者に関しては,実用性の有無に関わらず,積極的に義足歩行獲得へ向けた介入を行うべきである。