第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本運動器理学療法学会 一般演題口述
(運動器)06

2016年5月27日(金) 16:00 〜 17:00 第4会場 (札幌コンベンションセンター 1階 107+108)

座長:室井宏育(総合南東北病院 リハビリテーション科)

[O-MT-06-3] 大腿骨近位部骨折患者における術後早期理学療法評価が退院時FIM総得点に及ぼす因子の検討

―多施設間共同研究による後方視的研究―

座間拓弥1,3, 上野貴大2,3 (1.さいたま記念病院リハビリテーションセンター, 2.越谷リハビリケアセンター, 3.専門リハビリテーション研究会EBP推進作業部会)

キーワード:大腿骨近位部骨折, 日常生活動作, 予後予測

【はじめに,目的】

近年,後期高齢者の増加と共に転倒による大腿骨近位部骨折を呈する患者が増加している。このような状況で術後早期からの理学療法による介入で,歩行能力の向上及びADLの改善が主目的かつ重要である。大腿骨頸部骨折ガイドラインにおいて,機能予後の因子として年齢,受傷前歩行能力,認知機能が影響するとされており退院時歩行能力に焦点を当てた報告は多くみられる。しかし,ADLの改善すなわち退院時FIM総得点に関わる因子について検討した報告は少ない。そこで本研究では,術後早期より可能である理学療法評価において退院時FIM総得点に影響を及ぼす因子を抽出することを目的とした。




【方法】

対象者は専門リハビリテーション研究会多施設間共同研究グループに所属する病院に大腿骨近位部骨折により入院後,観血的手術を施行し理学療法が処方され,入院加療後退院へ至った43例(男性12例,女性31例,年齢79.3±15.2歳)。骨折部位は,頚部骨折26例,転子部骨折17例であり,術式はPFNA16例,THA10例,FHR5例,γ-nail5例,C-CHS6例,ORIF1例であった。対象者に対し,術後3日以内に初期評価を実施した。評価項目は,年齢,認知機能検査(MMSE),疼痛検査(VAS),患側股関節(屈曲・伸展・外転・内転)及び膝関節(屈曲・伸展)における関節可動域検査,患側股関節(屈曲・伸展・外転)及び膝関節(屈曲・伸展)における徒手筋力検査(徒手筋力計mobie,酒井医療社製),バランス検査(FBS),入院時及び退院時におけるADL検査(FIM)の計7項目とした。統計学的処理は,退院時FIM総得点と関連する因子を調査するために,各初期評価結果をSpearmanの順位相関係数を用い分析した。有意な相関を認めた項目を独立変数,退院時FIM総得点を従属変数とし,多重共線性の問題を考慮した上で重回帰分析(ステップワイズ法)を実施した。尚,有意水準は5%未満とした。




【結果】

退院時FIM総得点との相関分析の結果,年齢が負の相関を示し,MMSE,患側股関節外転可動域,患側股関節伸展筋力,FBS,初期FIM総得点の6項目がそれぞれ正の相関を示した。重回帰分析の結果,退院時FIM総得点に対して入院時FIM総得点,患側股関節伸展筋力,MMSEが有意な変数として抽出された(標準回帰係数:入院時FIM総得点0.37,患側股関節伸展筋力0.33,MMSE0.21)。退院時FIM総得点をyとして重回帰式はy=0.41×入院時FIM総得点+0.7×MMSE+0.17×患側股関節伸展筋力+43.1(決定係数R2=0.56,p<0.0001)が成り立った。




【結論】

過去の報告において,大腿骨近位部骨折患者の機能予後を予測する因子に挙げられていた認知機能に加え,本研究では入院時FIM総得点,患側股関節伸展筋力が新たに抽出された。本研究より得られた重回帰式を参考に,退院時ADLに対する予後予測を行うことに加え,上記の評価結果を経時的に注視しつつ,より選択的かつ効率的な運動療法を展開していくことが望ましいと考える。