[O-MT-06-5] 大腿骨近位部骨折受傷前後における術前に評価可能な項目から歩行能力低下因子の検討
キーワード:大腿骨近位部骨折, 歩行能力, 予後予測
【はじめに,目的】
大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン改訂第2版において,大腿骨近位部骨折後は適切な手術,後療法を行っても受傷前の日常活動レベルに復帰できるわけではなく,歩行能力回復に影響する因子は年齢,受傷前の移動能力,認知症の程度などとされている。歩行能力回復に影響する因子を早期に評価し,歩行能力の予後予測が行えれば,より適切なリハビリテーションを行うことができる。そこで本研究では大腿骨近位部骨折において,術前に評価可能な項目から歩行能力回復に影響する因子の検討をすることを目的とした。
【方法】
対象は2013年4月から2015年3月までの2年間で大腿骨近位部骨折にて入院した75例のうち,受傷前に歩行が自立しており,当院で手術を行い,地域連携パスにて回復期病院へ転院したのち,自宅退院した22例(年齢77.4±11.5歳,男性9名,女性13名)とした。なお除外基準は合併症により地域連携パスからドロップアウトした症例,重度な認知症を有する症例,車椅子や寝たきりなど歩行不能な症例とした。歩行能力は①手放し歩行自立,②歩行補助具使用や監視を有する歩行,③歩行不可の3段階とした。対象の歩行能力を受傷前と自宅退院時で比較し,歩行能力が維持した群と低下した群の2群に分けた。評価項目として年齢,性別,術式,術前Alb,術前握力(左右平均),術前HDS-Rとし,診療録,地域連携パスより後方視的に抽出し,2群間を比較検討した。統計処理はEZR version 1.30を使用し,x二乗検定,対応のないt検定,Mann-WhitneyのU検定を行い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
歩行維持群は13名(男性7名,女性6名),歩行低下群は9名(男性2名,女性7名)であった。低下群において受傷前の移動能力は全例手放し歩行自立であったが,自宅退院時には歩行補助具使用や監視を有する歩行能力へ低下していた。評価項目から有意差を認めたのは握力(維持群23.0±10.3kg,低下群17.8±5.7kg)であった(P=0.03)。性別,年齢(維持群73.5±12.0歳,低下群83.0±8.3歳)(P=0.06),術前HDS-R(維持群23.3±7.5点,低下群21.9±6.2点),術前Alb(維持群4.0±0.34g/dl,低下群3.6±0.5g/dl)(P=0.07),術式(維持群 髄内釘6名,人工骨頭5名,THA1名,ハンソンピン1名,低下群 髄内釘3名,人工骨頭4名,CHS 2名)では有意差が認められなかった。
【結論】
本研究では術前握力のみが2群間で有意差を認め,術前握力が歩行能力回復に影響する因子となった。握力は全身の筋力の指標とされ,特に大腿骨近位部骨折患者においては疼痛により下肢の筋力評価が困難であるため,握力を評価することにより,術後の歩行の予後予測を行える可能性が示唆される。また本研究の限界は地域連携パスが完結したデータを後方視的に抽出したものであり,大腿骨近位部骨折症例の中でも身体機能・認知機能の高い症例に絞った研究であるため,症例を増やし,他の因子も検討していく必要がある。
大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン改訂第2版において,大腿骨近位部骨折後は適切な手術,後療法を行っても受傷前の日常活動レベルに復帰できるわけではなく,歩行能力回復に影響する因子は年齢,受傷前の移動能力,認知症の程度などとされている。歩行能力回復に影響する因子を早期に評価し,歩行能力の予後予測が行えれば,より適切なリハビリテーションを行うことができる。そこで本研究では大腿骨近位部骨折において,術前に評価可能な項目から歩行能力回復に影響する因子の検討をすることを目的とした。
【方法】
対象は2013年4月から2015年3月までの2年間で大腿骨近位部骨折にて入院した75例のうち,受傷前に歩行が自立しており,当院で手術を行い,地域連携パスにて回復期病院へ転院したのち,自宅退院した22例(年齢77.4±11.5歳,男性9名,女性13名)とした。なお除外基準は合併症により地域連携パスからドロップアウトした症例,重度な認知症を有する症例,車椅子や寝たきりなど歩行不能な症例とした。歩行能力は①手放し歩行自立,②歩行補助具使用や監視を有する歩行,③歩行不可の3段階とした。対象の歩行能力を受傷前と自宅退院時で比較し,歩行能力が維持した群と低下した群の2群に分けた。評価項目として年齢,性別,術式,術前Alb,術前握力(左右平均),術前HDS-Rとし,診療録,地域連携パスより後方視的に抽出し,2群間を比較検討した。統計処理はEZR version 1.30を使用し,x二乗検定,対応のないt検定,Mann-WhitneyのU検定を行い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
歩行維持群は13名(男性7名,女性6名),歩行低下群は9名(男性2名,女性7名)であった。低下群において受傷前の移動能力は全例手放し歩行自立であったが,自宅退院時には歩行補助具使用や監視を有する歩行能力へ低下していた。評価項目から有意差を認めたのは握力(維持群23.0±10.3kg,低下群17.8±5.7kg)であった(P=0.03)。性別,年齢(維持群73.5±12.0歳,低下群83.0±8.3歳)(P=0.06),術前HDS-R(維持群23.3±7.5点,低下群21.9±6.2点),術前Alb(維持群4.0±0.34g/dl,低下群3.6±0.5g/dl)(P=0.07),術式(維持群 髄内釘6名,人工骨頭5名,THA1名,ハンソンピン1名,低下群 髄内釘3名,人工骨頭4名,CHS 2名)では有意差が認められなかった。
【結論】
本研究では術前握力のみが2群間で有意差を認め,術前握力が歩行能力回復に影響する因子となった。握力は全身の筋力の指標とされ,特に大腿骨近位部骨折患者においては疼痛により下肢の筋力評価が困難であるため,握力を評価することにより,術後の歩行の予後予測を行える可能性が示唆される。また本研究の限界は地域連携パスが完結したデータを後方視的に抽出したものであり,大腿骨近位部骨折症例の中でも身体機能・認知機能の高い症例に絞った研究であるため,症例を増やし,他の因子も検討していく必要がある。