[O-MT-07-4] 人工膝関節全置換術前後における外部膝関節内反モーメント・床反力は立位・歩行へ影響するか?
静的・動的な観点からみた縦断的研究
Keywords:人工膝関節全置換術, 外部膝関節内反モーメント, 床反力
【はじめに,目的】
本邦では人工膝関節全置換術(TKA)が2013年で年間8万件以上施行されている。変形性膝関節症(膝OA)の歩行時における外部膝関節内反モーメント(KAM)や床反力の特性は解明されつつあるが,静止立位及び歩行時のKAMや床反力との関係性は明らかにされていない。本研究の目的は,静止立位と歩行時のKAMと床反力の特性を明らかにし,両者の関係性を検討することである。
【方法】
対象は両膝OAによりTKA目的で入院した30名(平均年齢73.1±7.0歳)で,10m以上独歩可能な者を術前と術後6週に測定した。静止立位1回と自由歩行5回を三次元動作解析装置(VICON MX)と床反力計にて測定し,荷重率は体重計にて測定した。膝痛は視覚的評価スケール(VAS)を用いて歩行直後に検査し,大腿脛骨角(FTA)を測定した。解析は静止立位のKAM,床反力内側成分(Fx),鉛直成分(Fz)を算出した。自由歩行5回の立脚初期,中期,終期のKAMとFx,Fzを算出し,歩行パラメーターとして,歩行速度,ケイデンス,片脚・両脚支持時間,上下左右の重心変化量(COG)の平均値を算出した。KAMと床反力は体重で除した平均値を採用した。統計解析は正規分布を確認後,術前後の比較に対応のあるt検定,Wilcoxon符号付順位和検定を用い,左右の比較は対応のないt検定,Mann-whitneyのU検定を用いた。立位と歩行におけるKAMは,Peasonの積率相関係数を用いた。有意水準は5%未満とした。
【結果】
FTAとVASは術前と比較して術後術側で有意に低値であった。歩行パラメーターは術前後で有意差はなく,両脚支持時間のみ術後有意に低下した。立位時のKAMは術前と比較して術後術側で有意に低値を示し,Fxは左右・術前後の比較で有意差はなかった。荷重率は術前後ともに術側が有意に低値であった。歩行時のKAMは術前と比較し術後術側で有意に低値を示し,Fzは術後術側で立脚初期,中期で有意に低下した。歩行時のFxは術前と比較し術後非術側で有意に高値を示した。術前術側における立位時のKAMと歩行時のKAM増加率は初期:780%,中期:747%,終期:684%であった。術前後の立位と歩行の相関分析は,術側では相関関係は認めず,非術側における立位時のKAMと初期・中期のKAMでは正の相関(r=0.43~0.58)を認めた。
【結論】
片側TKA施行は,歩行速度やケイデンス,COG変化量に有意差を認めないが,FTAは正常化しVASは有意に減少した。そのため,動的な歩行時は術後術側のKAMとFz,両脚支持時間が減少した。静的な立位では術後術側のKAMは減少したが,立位時のFxや術側が減少した荷重率に変化がなく,TKA施行は動的な歩行への影響が大きいと考えた。また,立位と歩行で術前術側KAMは高い変化率を示し,相関関係は認めないため,術側では静的な立位と動的な歩行の関係性は低いと考えた。研究意義として,TKA施行によりアライメントは正常化するが,術側の立位と歩行時のKAMに相関関係は認めず,KAMと床反力は静的な立位より動的な歩行への影響が大きいことを提示したことである。
本邦では人工膝関節全置換術(TKA)が2013年で年間8万件以上施行されている。変形性膝関節症(膝OA)の歩行時における外部膝関節内反モーメント(KAM)や床反力の特性は解明されつつあるが,静止立位及び歩行時のKAMや床反力との関係性は明らかにされていない。本研究の目的は,静止立位と歩行時のKAMと床反力の特性を明らかにし,両者の関係性を検討することである。
【方法】
対象は両膝OAによりTKA目的で入院した30名(平均年齢73.1±7.0歳)で,10m以上独歩可能な者を術前と術後6週に測定した。静止立位1回と自由歩行5回を三次元動作解析装置(VICON MX)と床反力計にて測定し,荷重率は体重計にて測定した。膝痛は視覚的評価スケール(VAS)を用いて歩行直後に検査し,大腿脛骨角(FTA)を測定した。解析は静止立位のKAM,床反力内側成分(Fx),鉛直成分(Fz)を算出した。自由歩行5回の立脚初期,中期,終期のKAMとFx,Fzを算出し,歩行パラメーターとして,歩行速度,ケイデンス,片脚・両脚支持時間,上下左右の重心変化量(COG)の平均値を算出した。KAMと床反力は体重で除した平均値を採用した。統計解析は正規分布を確認後,術前後の比較に対応のあるt検定,Wilcoxon符号付順位和検定を用い,左右の比較は対応のないt検定,Mann-whitneyのU検定を用いた。立位と歩行におけるKAMは,Peasonの積率相関係数を用いた。有意水準は5%未満とした。
【結果】
FTAとVASは術前と比較して術後術側で有意に低値であった。歩行パラメーターは術前後で有意差はなく,両脚支持時間のみ術後有意に低下した。立位時のKAMは術前と比較して術後術側で有意に低値を示し,Fxは左右・術前後の比較で有意差はなかった。荷重率は術前後ともに術側が有意に低値であった。歩行時のKAMは術前と比較し術後術側で有意に低値を示し,Fzは術後術側で立脚初期,中期で有意に低下した。歩行時のFxは術前と比較し術後非術側で有意に高値を示した。術前術側における立位時のKAMと歩行時のKAM増加率は初期:780%,中期:747%,終期:684%であった。術前後の立位と歩行の相関分析は,術側では相関関係は認めず,非術側における立位時のKAMと初期・中期のKAMでは正の相関(r=0.43~0.58)を認めた。
【結論】
片側TKA施行は,歩行速度やケイデンス,COG変化量に有意差を認めないが,FTAは正常化しVASは有意に減少した。そのため,動的な歩行時は術後術側のKAMとFz,両脚支持時間が減少した。静的な立位では術後術側のKAMは減少したが,立位時のFxや術側が減少した荷重率に変化がなく,TKA施行は動的な歩行への影響が大きいと考えた。また,立位と歩行で術前術側KAMは高い変化率を示し,相関関係は認めないため,術側では静的な立位と動的な歩行の関係性は低いと考えた。研究意義として,TKA施行によりアライメントは正常化するが,術側の立位と歩行時のKAMに相関関係は認めず,KAMと床反力は静的な立位より動的な歩行への影響が大きいことを提示したことである。