第51回日本理学療法学術大会

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一般演題口述

日本運動器理学療法学会 一般演題口述
(運動器)08

Fri. May 27, 2016 6:20 PM - 7:20 PM 第4会場 (札幌コンベンションセンター 1階 107+108)

座長:隈元庸夫(埼玉県立大学 保健医療福祉学部)

[O-MT-08-3] 頸部郭清術後の郭清範囲における肩甲胸郭関節および肩甲上腕関節機能の経時的変化

小野田篤1, 松本仁美1, 中里友哉1, 野中拓馬2 (1.東海大学医学部付属病院, 2.東海大学医学部付属東京病院)

Keywords:頭頸部癌, 頸部郭清, 肩関節機能

【はじめに,目的】頭頸部癌の頸部リンパ節転移に対する手術として頸部郭清術が行われ,その患者の多くが術後に副神経麻痺を呈すると報告されている。頸部郭清術の郭清範囲は,LevelIからVIに分類され,副神経はLevelII部分を対角線上に走行しており,副神経後方組織であるIIbの郭清を省略することが術後の肩関節障害を軽減できる可能性があるとされている。我々は以前,IIb温存群とIIb郭清群の肩甲胸郭関節機能を比較し,郭清群が有意に低値を示すことを報告した。更に,肩甲骨内転運動を除く肩関節機能は術後3ヶ月で概ね回復することを報告した。そこで今回,郭清範囲別に肩甲胸郭関節と肩甲上腕関節の機能を評価し,さらに患者立脚肩関節評価システムShoulder36V.1.3(以下Sh36)をQOL評価に加え,術前,術後,術後3ヶ月における肩関節機能を経時的に調査した。

【方法】当院で頸部郭清術を施行した患者13名18肩(年齢68.0±9.0歳)を対象とした。対象患者は,手術記録よりIIb温存群(以下温存群)8肩,IIb郭清群(以下郭清群)10肩に分類した。肩甲胸郭関節の機能評価として肩甲骨自動拳上可動域(°),肩甲骨自動内転移動距離(cm)を,肩甲上腕関節の機能評価として肩関節自動屈曲,外転の可動域(°)および筋力(Nm/kg)を計測した。QOL評価としてSh36を調査した。評価時期はそれぞれ術前,術後,術後3ヶ月とした。統計処理はSPSS(ver.21)を使用し,分散分析,多重比較検定を行い,有意水準を5%未満とした。

【結果】術後3ヶ月において,温存群,郭清群の順に肩関節自動屈曲可動域148.8±14.9°,128.9±21.5°,肩関節自動屈曲筋力0.5±0.1Nm/kg,0.4±1.0Nm/kgであり,郭清群が有意に低値を示した。また,術前と術後の比較では,温存群の肩甲骨内転移動距離と肩関節自動屈曲,外転可動域および筋力,Sh36は疼痛,可動域,筋力,健康感の項目で,術後が有意に低値を示した。郭清群では肩甲骨内転移動距離,肩甲骨挙上可動域,肩関節自動屈曲可動域および筋力,外転可動域,Sh36はすべての項目で術後が有意に低値を示した。

【結論】術後3ヶ月で,温存群と郭清群の肩関節自動屈曲の可動域と筋力に有意差が生じたのは,IIb郭清による副神経麻痺が,肩関節屈曲時に伴う肩甲骨上方回旋運動の主働作筋である僧帽筋上部線維の機能不全を引き起こしたものと考える。しかし,郭清群のSh36は術後のみに低値を示したことから,郭清群の肩関節屈曲機能は低下しているにも関わらず,QOLは術後3ヶ月で概ね術前のレベルまで回復していると考える。術前からの早期介入によって術前と同様の機能回復を目指した理学療法に加え,“癌”リハビリテーションの側面から,QOL回復にも配慮した治療が求められる。