[O-MT-09-6] 人工膝関節全置換術後早期患者におけるステップ動作課題時の下肢筋活動パターンについて
Keywords:人工膝関節全置換術, ステップ動作, 筋活動パターン
【はじめに,目的】
ステップ動作は歩行の再現などに利用される臨床上,有用な動作である。動作開始前に観察される予測的姿勢調節としての筋活動は動作時の姿勢安定性に寄与するとされる。人工膝関節全置換術(TKA)患者では,歩行時の大腿二頭筋の筋活動量が増加することが報告されているが,動作開始前の筋活動パターンに関する報告は見当たらない。本研究の目的は,ステップ動作課題を用いてTKA患者の下肢筋活動パターンを調査し,健常者との違いを明らかにすることで,術後の理学療法を検討する上での一助を得ることとした。
【方法】
対象はTKA後4週が経過した10名(TKA群:年齢68.6歳),健常高齢者10名(高齢群:年齢68.0歳)および健常若年者10名(若年群:年齢22.9歳)とした。施行動作は,安静立位を開始肢位とし,音刺激後すぐに,TKA群は非術側もしくは術側を,高齢群および若年群は非利き足を前方へ踏み出す動作とした。導出筋を支持脚の大殿筋(GM),中殿筋(GMe),長内転筋(AL),外側広筋(VL),大腿二頭筋(BF),前脛骨筋(TA)および外側腓腹筋(GL)とし,Noraxon社製筋電計を用いて筋活動開始時間を測定した。筋活動開始時間は音刺激開始から安静立位の平均筋活動の2SDを越えた最初の時間と定義した。また,踏み出す下肢の母趾と踵部にフットスイッチを取り付け,下肢挙上開始時間(RT)を測定した。統計学的分析として,TKA群の術側,非術側,健常群および若年群の筋活動開始時間およびRTの比較ならびに各群内における比較に二元配置分散分析を使用し,多重比較としてBonferroni法を用いた。有意水準は5%とした。
【結果】
群間比較について,VLは高齢群(0.39±0.17s)および若年群(0.42±0.27s)と比較してTKA群の術側(0.71±0.45s)および非術側(0.73±0.49)で有意に遅延した。群内比較について,術側ではVLを除く全ての筋がRTと比較して有意に早く,また,TAはVLと比較して有意に早く活動した。非術側ではAL,BFおよびTAはRTと比較して有意に早く,また,TAはGM,GMeおよびVLと比較して有意に早く活動した。高齢群ではGMを除く全ての筋が,また,若年群ではGMおよびGLを除く全ての筋がRTと比較して有意に早く活動した。
【結論】
TKA群では術側および非術側のVLが遅延し,また,各群によってRTより早く活動する筋に違いがあった。Van Deunらは姿勢制御課題において障害部位のみならず他の部位においても筋活動パターンが変化すると述べている。下肢挙上前に開始する筋活動は主にフィードフォワード運動制御によるものと推察され,TKA群で観察されたVLの遅れを代償するために健常者とは異なった筋活動パターンにてステップ動作の姿勢安定性を図っている可能性が示唆された。本研究で観察された筋活動パターンの変化が立位動作の安定性に影響することも予想され,今後,更なる検討を進めたい。
ステップ動作は歩行の再現などに利用される臨床上,有用な動作である。動作開始前に観察される予測的姿勢調節としての筋活動は動作時の姿勢安定性に寄与するとされる。人工膝関節全置換術(TKA)患者では,歩行時の大腿二頭筋の筋活動量が増加することが報告されているが,動作開始前の筋活動パターンに関する報告は見当たらない。本研究の目的は,ステップ動作課題を用いてTKA患者の下肢筋活動パターンを調査し,健常者との違いを明らかにすることで,術後の理学療法を検討する上での一助を得ることとした。
【方法】
対象はTKA後4週が経過した10名(TKA群:年齢68.6歳),健常高齢者10名(高齢群:年齢68.0歳)および健常若年者10名(若年群:年齢22.9歳)とした。施行動作は,安静立位を開始肢位とし,音刺激後すぐに,TKA群は非術側もしくは術側を,高齢群および若年群は非利き足を前方へ踏み出す動作とした。導出筋を支持脚の大殿筋(GM),中殿筋(GMe),長内転筋(AL),外側広筋(VL),大腿二頭筋(BF),前脛骨筋(TA)および外側腓腹筋(GL)とし,Noraxon社製筋電計を用いて筋活動開始時間を測定した。筋活動開始時間は音刺激開始から安静立位の平均筋活動の2SDを越えた最初の時間と定義した。また,踏み出す下肢の母趾と踵部にフットスイッチを取り付け,下肢挙上開始時間(RT)を測定した。統計学的分析として,TKA群の術側,非術側,健常群および若年群の筋活動開始時間およびRTの比較ならびに各群内における比較に二元配置分散分析を使用し,多重比較としてBonferroni法を用いた。有意水準は5%とした。
【結果】
群間比較について,VLは高齢群(0.39±0.17s)および若年群(0.42±0.27s)と比較してTKA群の術側(0.71±0.45s)および非術側(0.73±0.49)で有意に遅延した。群内比較について,術側ではVLを除く全ての筋がRTと比較して有意に早く,また,TAはVLと比較して有意に早く活動した。非術側ではAL,BFおよびTAはRTと比較して有意に早く,また,TAはGM,GMeおよびVLと比較して有意に早く活動した。高齢群ではGMを除く全ての筋が,また,若年群ではGMおよびGLを除く全ての筋がRTと比較して有意に早く活動した。
【結論】
TKA群では術側および非術側のVLが遅延し,また,各群によってRTより早く活動する筋に違いがあった。Van Deunらは姿勢制御課題において障害部位のみならず他の部位においても筋活動パターンが変化すると述べている。下肢挙上前に開始する筋活動は主にフィードフォワード運動制御によるものと推察され,TKA群で観察されたVLの遅れを代償するために健常者とは異なった筋活動パターンにてステップ動作の姿勢安定性を図っている可能性が示唆された。本研究で観察された筋活動パターンの変化が立位動作の安定性に影響することも予想され,今後,更なる検討を進めたい。