[O-MT-11-3] 複合性局所疼痛症候群における知覚運動協応の分析
―運動学的データを用いて―
キーワード:複合性局所疼痛症候群, 疼痛, 知覚運動協応
【はじめに,目的】複合性局所疼痛症候群(Complex regional pain syndrome:CRPS)では,運動発現過程で知覚運動協応の破綻が生じていることが報告されているが(Bailey, et al., 2013),その定量的評価は確立されていない。本研究では,到達・把握運動の3次元動作計測から取得される運動学的データを用いて,CRPS症例における知覚運動協応の変容を定量的に分析した。
【方法】症例は乳腺術後にCRPSを呈した40歳代女性で,手部の持続痛・アロディニア,浮腫,自発的な運動の緩慢さと関節可動域の狭小が認められていた。到達・把握運動は,健肢と患肢それぞれについて,身体正中30cm前方に位置した円柱(高さ30cm・直径5cm)の先端への到達・把握動作を10回繰り返した。3次元位置磁気計測システム(Fastrack,Polhemus社)を用いて,手首に装着したセンサーの3次元座標上の位置情報を取得し,到達運動の運動軌跡を計測した。到達運動における運動速度の時系列変化を算出し,運動開始から運動速度がピークに達するまでの区間(加速期),運動速度のピークから運動終了までの区間(減速期)に分割した。加速期・減速期におけるCurvature Index(CI:実際の運動軌跡長から最短距離を減算した値),Direction Error(DE:対象物の方向に対する逸脱角度)を算出した。これらの値を,健肢(Int条件)・患肢条件(Aff_pre条件)・局所静脈内ブロック治療による疼痛緩和後の患肢条件(Aff_post条件)で比較した(Wilcoxon signed-rank test)。有意水準は1.67%とした。
【結果】加速期でのCIでは,3条件間に有意差は認められなかったが,減速期でのCIでは,Aff_pre条件およびAff_post条件はInt条件よりも有意に大きな値を示し,減速期でのみ失調様の患肢運動が観察された。健肢の運動軌跡は,動き始めは外側へ逸脱するパターンを示し外側に凸の円弧の軌跡を滑らかに描いたが,患肢は目標に対して直線を描くパターンを示していた。この外側への逸脱度を定量的に示す加速期のDEは,Aff_pre条件およびAff_post条件ではInt条件よりも有意に小さかった。また,Aff_post条件ではAff_pre条件よりも大きくなる傾向を示した。
【結論】視覚-体性感覚の統合が重要となる減速期においてのみ,患肢のCIが有意に大きかったことから,患肢の失調様の運動様式は視覚-体性感覚の統合不全によるものと考えられる。また,運動プログラムが反映される加速期において,運動の円滑性に重要である外側への逸脱パターンが患肢では認められなかったことから,本症例は運動の円滑性よりも運動量の最小化を優先する運動をプログラムしていると考えられる。疼痛緩和後のAff_post条件では,DEが大きくなる傾向を示し,このような運動量を最小化する運動戦略は,痛みに対する恐怖・不安が影響している可能性がある。CRPS患肢の運動を詳細に分析することによって知覚運動協応の破綻を定量的に評価することが可能となることが示唆された。
【方法】症例は乳腺術後にCRPSを呈した40歳代女性で,手部の持続痛・アロディニア,浮腫,自発的な運動の緩慢さと関節可動域の狭小が認められていた。到達・把握運動は,健肢と患肢それぞれについて,身体正中30cm前方に位置した円柱(高さ30cm・直径5cm)の先端への到達・把握動作を10回繰り返した。3次元位置磁気計測システム(Fastrack,Polhemus社)を用いて,手首に装着したセンサーの3次元座標上の位置情報を取得し,到達運動の運動軌跡を計測した。到達運動における運動速度の時系列変化を算出し,運動開始から運動速度がピークに達するまでの区間(加速期),運動速度のピークから運動終了までの区間(減速期)に分割した。加速期・減速期におけるCurvature Index(CI:実際の運動軌跡長から最短距離を減算した値),Direction Error(DE:対象物の方向に対する逸脱角度)を算出した。これらの値を,健肢(Int条件)・患肢条件(Aff_pre条件)・局所静脈内ブロック治療による疼痛緩和後の患肢条件(Aff_post条件)で比較した(Wilcoxon signed-rank test)。有意水準は1.67%とした。
【結果】加速期でのCIでは,3条件間に有意差は認められなかったが,減速期でのCIでは,Aff_pre条件およびAff_post条件はInt条件よりも有意に大きな値を示し,減速期でのみ失調様の患肢運動が観察された。健肢の運動軌跡は,動き始めは外側へ逸脱するパターンを示し外側に凸の円弧の軌跡を滑らかに描いたが,患肢は目標に対して直線を描くパターンを示していた。この外側への逸脱度を定量的に示す加速期のDEは,Aff_pre条件およびAff_post条件ではInt条件よりも有意に小さかった。また,Aff_post条件ではAff_pre条件よりも大きくなる傾向を示した。
【結論】視覚-体性感覚の統合が重要となる減速期においてのみ,患肢のCIが有意に大きかったことから,患肢の失調様の運動様式は視覚-体性感覚の統合不全によるものと考えられる。また,運動プログラムが反映される加速期において,運動の円滑性に重要である外側への逸脱パターンが患肢では認められなかったことから,本症例は運動の円滑性よりも運動量の最小化を優先する運動をプログラムしていると考えられる。疼痛緩和後のAff_post条件では,DEが大きくなる傾向を示し,このような運動量を最小化する運動戦略は,痛みに対する恐怖・不安が影響している可能性がある。CRPS患肢の運動を詳細に分析することによって知覚運動協応の破綻を定量的に評価することが可能となることが示唆された。