[O-MT-15-1] 慢性腰痛者における腰部の臨床不安定性と股関節伸展運動時の背部筋群及び股関節伸展筋群の活動開始時間との関係
キーワード:腰痛, 臨床不安定性, 股関節伸展運動
【はじめに,目的】
腰椎骨盤の安定性の評価の一つには,腹臥位での股関節伸展運動が挙げられ,腰痛者では股関節伸展時にグローバル筋群である脊柱起立筋と対側の広背筋の過活動が報告されている(Kimら2013)。また我々は,慢性腰痛者で股関節伸展時の両側の多裂筋と対側の脊柱起立筋の活動開始が遅延することを明らかにし(J Electromyogr Kinesiol, 2015),その結果から腰痛者の筋活動の遅延が腰椎骨盤の安定性を減少させると推察した。しかし,脊椎の安定化システムの機能不全の徴候である腰部の臨床不安定性と股関節伸展時の筋の開始時間との関係については,明らかとなっていない。この関係を検討することで,臨床不安定性を有する慢性腰痛者への治療介入に対する基礎的知識を提供することが可能となる。そこで本研究の目的は,腰痛者における腰部の臨床不安定性と股関節伸展時の筋の活動開始時間との関係を明らかにすることとした。
【方法】
対象は神経障害のない慢性腰痛患者25名とした。臨床不安定性の試験としてProne instability test(PIT)と腰椎屈曲時の異常な動きを観察した(Bielyら2006)。股関節伸展運動は,被験者を腹臥位とし前方に置かれたランプが点灯後,股関節を0°から10°まで最大速度で伸展した。股関節伸展運動時の筋活動の測定には,表面筋電計を用い,被験筋は両側の脊柱起立筋,多裂筋,股関節伸展側の半腱様筋,大殿筋とした。筋の活動開始時間は,筋の活動振幅が安静時の平均値から2標準偏差を超えた時とし,各筋と主動作筋(半腱様筋)の間の開始時間の相対的な差を求めた。なお,正の値は主動作筋(半腱様筋)の後に活動したことを示す。腰部の臨床不安定性と股関節伸展時の筋の開始時間との関係には,正規性を確認後,点双列相関係数もしくはRank-biserial correlationsを使用して分析した(p<0.05)。
【結果】
PITの陽性の患者は11名,腰椎屈曲時の異常な動きが出現した者は12名であった。股関節伸展時の同側脊柱起立筋,対側脊柱起立筋,同側多裂筋,対側多裂筋,大殿筋のそれぞれの開始時間は,28.6±17.1ms,23.9±19.9ms,19.7±15.1ms,24.9±18.3ms,57.6±42.3msであった。PITの陽性の結果は対側の脊柱起立筋の活動遅延(rpb=0.533,p=0.006),同側の多裂筋の活動遅延(rpb=0.58,p=0.003),対側の多裂筋の活動遅延(rrb=0.60,p=0.002)と有意な相関を示し,同側の脊柱起立筋と大殿筋は有意な相関を認めなかった。また腰椎屈曲時の異常な動きと股関節伸展時の筋の開始時間との間には有意な相関を認めなかった。
【結論】
本研究では,PITの陽性の結果が両側の多裂筋と対側の脊柱起立筋の活動遅延と相関した。先行研究では,多裂筋などのローカル筋群の活動遅延が,腰痛の再発の原因となると報告している(MacDonaldら2009)。従って,腰部の臨床不安定性を有する腰痛者に対する治療は,遅延筋の活動開始時間の修正を意図した治療を考慮する必要がある。
腰椎骨盤の安定性の評価の一つには,腹臥位での股関節伸展運動が挙げられ,腰痛者では股関節伸展時にグローバル筋群である脊柱起立筋と対側の広背筋の過活動が報告されている(Kimら2013)。また我々は,慢性腰痛者で股関節伸展時の両側の多裂筋と対側の脊柱起立筋の活動開始が遅延することを明らかにし(J Electromyogr Kinesiol, 2015),その結果から腰痛者の筋活動の遅延が腰椎骨盤の安定性を減少させると推察した。しかし,脊椎の安定化システムの機能不全の徴候である腰部の臨床不安定性と股関節伸展時の筋の開始時間との関係については,明らかとなっていない。この関係を検討することで,臨床不安定性を有する慢性腰痛者への治療介入に対する基礎的知識を提供することが可能となる。そこで本研究の目的は,腰痛者における腰部の臨床不安定性と股関節伸展時の筋の活動開始時間との関係を明らかにすることとした。
【方法】
対象は神経障害のない慢性腰痛患者25名とした。臨床不安定性の試験としてProne instability test(PIT)と腰椎屈曲時の異常な動きを観察した(Bielyら2006)。股関節伸展運動は,被験者を腹臥位とし前方に置かれたランプが点灯後,股関節を0°から10°まで最大速度で伸展した。股関節伸展運動時の筋活動の測定には,表面筋電計を用い,被験筋は両側の脊柱起立筋,多裂筋,股関節伸展側の半腱様筋,大殿筋とした。筋の活動開始時間は,筋の活動振幅が安静時の平均値から2標準偏差を超えた時とし,各筋と主動作筋(半腱様筋)の間の開始時間の相対的な差を求めた。なお,正の値は主動作筋(半腱様筋)の後に活動したことを示す。腰部の臨床不安定性と股関節伸展時の筋の開始時間との関係には,正規性を確認後,点双列相関係数もしくはRank-biserial correlationsを使用して分析した(p<0.05)。
【結果】
PITの陽性の患者は11名,腰椎屈曲時の異常な動きが出現した者は12名であった。股関節伸展時の同側脊柱起立筋,対側脊柱起立筋,同側多裂筋,対側多裂筋,大殿筋のそれぞれの開始時間は,28.6±17.1ms,23.9±19.9ms,19.7±15.1ms,24.9±18.3ms,57.6±42.3msであった。PITの陽性の結果は対側の脊柱起立筋の活動遅延(rpb=0.533,p=0.006),同側の多裂筋の活動遅延(rpb=0.58,p=0.003),対側の多裂筋の活動遅延(rrb=0.60,p=0.002)と有意な相関を示し,同側の脊柱起立筋と大殿筋は有意な相関を認めなかった。また腰椎屈曲時の異常な動きと股関節伸展時の筋の開始時間との間には有意な相関を認めなかった。
【結論】
本研究では,PITの陽性の結果が両側の多裂筋と対側の脊柱起立筋の活動遅延と相関した。先行研究では,多裂筋などのローカル筋群の活動遅延が,腰痛の再発の原因となると報告している(MacDonaldら2009)。従って,腰部の臨床不安定性を有する腰痛者に対する治療は,遅延筋の活動開始時間の修正を意図した治療を考慮する必要がある。