[O-MT-16-1] 変形性股関節症患者における股関節可動域と股関節周囲筋の容積との関連
キーワード:変形性股関節症, 関節可動域, 筋容積
【はじめに,目的】
股関節の可動域(以下,ROM)制限および股関節周囲筋の筋力低下は変形性股関節症(以下,股関節症)に出現する主要な機能障害である。いずれも起居動作遂行能力の低下や姿勢・歩容の変化と相互に影響を及ぼし合っている。特に大殿筋上部線維(以下,大殿筋),中殿筋,小殿筋,大腿筋膜張筋といった股関節外転筋(以下,外転筋)群および梨状筋の筋出力低下は跛行の原因になるため,これらの筋に焦点を当て理学療法を施行する機会は多い。外転筋群は解剖学的構造から外転の他に屈伸および回旋の作用も兼備し,梨状筋は股関節外旋と屈曲・外転に作用する。そのため股関節症患者に現れる多様なROM制限が筋の働きに影響を及ぼし十分に活動できずに筋萎縮を呈している可能性があり,こうした特徴を見いだせれば理学療法に有益な情報となると考えた。勝木ら(2012年)は,屈曲・外転ROMと大殿筋および中殿筋の筋断面積との関連を報告しているが,他の方向のROMは検討されていない。さらに,股関節症患者における筋萎縮の評価には筋の容積を計測する必要性を述べている報告があり,特に梨状筋は深層筋ゆえ客観的な評価が困難なため,定量的に個々の筋の容積を計測することは筋力低下を詳細に考証する上で意義深いと考える。本研究の目的は,股関節症患者において股ROMと股関節周囲筋の容積との関連を明らかにすることである。
【方法】
対象は,進行期および末期股関節症患者女性30名(片側例7名,両側例23名),53股関節とした。平均年齢(範囲)は64.6(49-78)歳,平均身長(標準偏差)は153.7(5.4)cm,平均体重(標準偏差)は54.7(7.8)kgであった。股関節の屈曲・伸展,内外転,内外旋の可動域を角度計にて計測した。大殿筋,中殿筋,小殿筋,大腿筋膜張筋および梨状筋の容積はCT撮影で得られたデジタルデータを用い,Grimaldiら(2009年)の方法を参考に計測した。水平断像で計測筋を頭側から尾側へ観察し,目視できた断層から4断層毎に目視しうる断層までの各断層における面積を求めた。断層厚を乗じ容積を算出し,その総和を筋の容積とした。各股ROMと各筋の容積の間で相関があるか,身長と体重を制御変数とした偏相関係数(=r)を求めた。統計処理は統計解析ソフトSPSSver19を用い,有意水準は5%とした。
【結果】
屈曲ROMは大殿筋,中殿筋,梨状筋と弱から中等度の有意な正の相関を示した(0.31<r<0.44)。外転および内旋ROMは大殿筋,中殿筋,梨状筋と中等度の有意な正の相関を示した(0.40<r<0.61)。
【結論】
股関節症患者において各股ROMと股関節周囲筋の容積との関連を検討した。股ROMと小殿筋および大腿筋膜張筋の容積に関連は認められなかった。屈曲および外転・内旋ROMの低下は大殿筋・中殿筋・梨状筋の容積の減少に関与していた。本研究の結果,股関節周囲筋の維持・改善には股ROMの増大や姿勢・動作様式の修正の必要性が示唆された。
股関節の可動域(以下,ROM)制限および股関節周囲筋の筋力低下は変形性股関節症(以下,股関節症)に出現する主要な機能障害である。いずれも起居動作遂行能力の低下や姿勢・歩容の変化と相互に影響を及ぼし合っている。特に大殿筋上部線維(以下,大殿筋),中殿筋,小殿筋,大腿筋膜張筋といった股関節外転筋(以下,外転筋)群および梨状筋の筋出力低下は跛行の原因になるため,これらの筋に焦点を当て理学療法を施行する機会は多い。外転筋群は解剖学的構造から外転の他に屈伸および回旋の作用も兼備し,梨状筋は股関節外旋と屈曲・外転に作用する。そのため股関節症患者に現れる多様なROM制限が筋の働きに影響を及ぼし十分に活動できずに筋萎縮を呈している可能性があり,こうした特徴を見いだせれば理学療法に有益な情報となると考えた。勝木ら(2012年)は,屈曲・外転ROMと大殿筋および中殿筋の筋断面積との関連を報告しているが,他の方向のROMは検討されていない。さらに,股関節症患者における筋萎縮の評価には筋の容積を計測する必要性を述べている報告があり,特に梨状筋は深層筋ゆえ客観的な評価が困難なため,定量的に個々の筋の容積を計測することは筋力低下を詳細に考証する上で意義深いと考える。本研究の目的は,股関節症患者において股ROMと股関節周囲筋の容積との関連を明らかにすることである。
【方法】
対象は,進行期および末期股関節症患者女性30名(片側例7名,両側例23名),53股関節とした。平均年齢(範囲)は64.6(49-78)歳,平均身長(標準偏差)は153.7(5.4)cm,平均体重(標準偏差)は54.7(7.8)kgであった。股関節の屈曲・伸展,内外転,内外旋の可動域を角度計にて計測した。大殿筋,中殿筋,小殿筋,大腿筋膜張筋および梨状筋の容積はCT撮影で得られたデジタルデータを用い,Grimaldiら(2009年)の方法を参考に計測した。水平断像で計測筋を頭側から尾側へ観察し,目視できた断層から4断層毎に目視しうる断層までの各断層における面積を求めた。断層厚を乗じ容積を算出し,その総和を筋の容積とした。各股ROMと各筋の容積の間で相関があるか,身長と体重を制御変数とした偏相関係数(=r)を求めた。統計処理は統計解析ソフトSPSSver19を用い,有意水準は5%とした。
【結果】
屈曲ROMは大殿筋,中殿筋,梨状筋と弱から中等度の有意な正の相関を示した(0.31<r<0.44)。外転および内旋ROMは大殿筋,中殿筋,梨状筋と中等度の有意な正の相関を示した(0.40<r<0.61)。
【結論】
股関節症患者において各股ROMと股関節周囲筋の容積との関連を検討した。股ROMと小殿筋および大腿筋膜張筋の容積に関連は認められなかった。屈曲および外転・内旋ROMの低下は大殿筋・中殿筋・梨状筋の容積の減少に関与していた。本研究の結果,股関節周囲筋の維持・改善には股ROMの増大や姿勢・動作様式の修正の必要性が示唆された。