第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本運動器理学療法学会 一般演題口述
(運動器)20

2016年5月29日(日) 11:10 〜 12:10 第4会場 (札幌コンベンションセンター 1階 107+108)

座長:神戸晃男(金沢医科大学病院 医療技術部 心身機能回復技術部門)

[O-MT-20-1] しゃがみこみ動作中の膝関節伸展筋の筋活動

中村慎也1, 秋野賢一1, 青木利彦1, 高森宣行1, 齋藤佐知子1, 寿良太1, 三好祐之1, 樋川正直1, 渋谷高明1,2, 大澤傑3 (1.住友病院リハビリテーション科, 2.住友病院整形外科, 3.大阪行岡医療大学)

キーワード:しゃがみこみ動動作, 膝関節伸展筋, 人工股関節全置換術

【目的】

近年,人工股関節全置換術(THA)後のしゃがみこみ動作について,手術内容などによっては許可される報告がみられるが,動作開始や動作指導についての一定の見解は得られていない。しゃがみこみ動作は膝関節伸展筋の活動を中心とした動作様式とされており,THA後に膝関節伸展筋筋力の回復が遅延するとういう報告もあることから,動作中の膝関節伸展筋の活動量を明らかにしたうえで,安全に動作を実施する必要がある。そこで,THA後症例に安全に動作指導することを目的に,健常人を対象として,しゃがみこみ動作中の各相での膝関節伸展筋筋活動量の違いを検討した。

【方法】

対象は健常人男性5名(平均年齢34.6歳)で,しゃがみこみ動作は,肩幅に足を開いた立位からしゃがみこみ肢位になり,立位に戻るまでを一連の動作とし,しゃがみこみ肢位で踵部を床に接地するheel downの方法とした。筋活動は,被験筋を内側広筋,大腿直筋として表面筋電図で計測し,等尺性収縮での最大筋力値(Nm/Kg)から%MVC法にて正規化した。動作中の筋活動の違いを解析するため,しゃがみこみ動作を5相に分けた。第1相は立位姿勢から膝関節屈曲90°,第2相は膝関節屈曲90°からしゃがみこみ肢位,第3相はしゃがみこみ肢位を3秒間保持,第4相はしゃがみこみ肢位から膝関節屈曲90°,第5相は膝関節屈曲90°から立位姿勢までとした。統計学的検討は,被験筋の各相間の筋活動量を一元配置分散分析を用いて比較し,有意水準は5%未満とした。

【結果】

しゃがみこみ動作中の各相での筋活動(%MVC)は内側広筋(第1相:36.7,第2相:60.6,第3相:12.4,第4相:144.7,第5相:77.1)大腿直筋(第1相:8.4,第2相:17.6,第3相:5.5,第4相:29.2,第5相:12.4)となった。各相間の筋活動の比較では,内側広筋,大腿直筋の両方において,第4相での筋活動が第1相と第3相の筋活動に比べ有意に高い結果となった(p<0.05)。

【考察】

しゃがみこみ動作中の膝関節伸展筋筋活動は,しゃがみこみ肢位を保持している第3相での筋活動は少なく,その肢位から膝関節屈曲90°まで立ち上がる第4相で最も活動が高くなることが明らかになった。膝関節完全屈曲位であるしゃがみこみ肢位から立ち上がるには,大きな膝関節伸展モーメントが必要となることを示している。また,THA後症例に安全にしゃがみこみ動作を実施するという観点では,しゃがみこみ肢位から立ち上がる相で十分な膝関節伸展筋活動を発揮し,転倒や脱臼肢位にならないように重心制御することが必要となる。動作指導する際には,この相での指導を重視し,動作開始にあたっては,膝関節伸展筋の筋力評価が重要であると考えられる。

【結論】

今回の結果からは,しゃがみこみ動作中の膝関節伸展筋活動は,特にしゃがみこみ肢位から立ち上がる相で高いことが確認できた。今後,THA後症例に安全に動作指導を実施する際の指標の一つとなることが示唆された。