[O-MT-20-6] 人工股関節全置換術前後の膝痛と膝アライメントの変化
Keywords:人工股関節全置換術, 膝痛, 膝アライメント
【はじめに,目的】
人工股関節全置換術(THA)術前後において膝痛を訴える患者を経験する。病態としてCoxitis kneeがあげられるが,このことは変形性股関節症(股OA)等の股関節疾患に伴い,対側あるいは同側に発症する二次性変形性膝関節症(膝OA)である。そこで本研究の目的は,THA術前後の膝痛と膝アライメントの変化について調査することである。
【方法】術前と術後1ヵ月のX線から術側,非術側の大腿脛骨角(FTA),大腿骨頸体角,術側オフセット長,脚長差を測定した。FTAは大腿骨軸と脛骨軸,頸体角は頸部軸と骨幹部軸を結ぶ各々のなす角とした。オフセット長は大腿骨軸から大腿骨骨頭中心までの距離とし,脚長差は左右涙痕線下端を結ぶ垂線と小転子最長部の距離の差とした。術側,非術側の膝痛の有無や歩行機能(10m歩行時間,Timed Up and Go;TUG)は,カルテから後方視的に術前と術後2カ月で調査した。統計解析は,正規性を確認の上,術前後の各項目において対応のあるt検定またはWilcoxon符合付順位検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
術側のFTAは術前175.5±2.8°,術後174.9±2.1°,非術側のFTAは術前174.8±3.0°,術後175.0±2.3°,頸体角は術前133.9±8.2°,術後134.4±3.8°,術後オフセットは術前31.7±5.3mm,術後40.1±5.4mm,脚長差は術前17.2±12.9mm,術後2.7±7.9mmであった。10m歩行時間は術前13.2±6.4秒,術後11±2.9秒,TUGは術前13.6±5.1秒,術後11.9±3.4秒でありオフセット長(p<0.01),脚長差(p<0.01)TUG(p<0.01)に有意差がみられた。膝痛は術前10例(33.3%),術後3例(10%)にみられた。膝OAの診断は1例であった。
【結論】
今回の研究で術前後において膝痛は軽減したが,術前後のFTAの角度差はみられず膝アライメントに関係性は得られなかった。これまでに末期股OA症例に対する脚長差の補正は膝OAを予防する。膝痛軽減は,下肢アライメントが変化するため脚延長に伴う軟部組織の伸張改善と歩行中の股関節回旋,足部の接地方向などの修正を要する。術後オフセット長の補正は,術後FTAが正常に近づくことや股関節外転筋がより発揮されやすくなる,といった報告がなされている。これらを踏まえてオフセット長や脚長差に有意差があることから,術前は股関節痛や外転筋力低下が影響し,股関節の安定性が得られず膝に負担がかかっていたが,術後は筋力や歩容が改善され膝の痛みが軽減したのではないかと考えられる。今後は膝痛が下肢アライメントと外転筋力とどのように変化するかさらなる検討が必要と思われる。
人工股関節全置換術(THA)術前後において膝痛を訴える患者を経験する。病態としてCoxitis kneeがあげられるが,このことは変形性股関節症(股OA)等の股関節疾患に伴い,対側あるいは同側に発症する二次性変形性膝関節症(膝OA)である。そこで本研究の目的は,THA術前後の膝痛と膝アライメントの変化について調査することである。
【方法】術前と術後1ヵ月のX線から術側,非術側の大腿脛骨角(FTA),大腿骨頸体角,術側オフセット長,脚長差を測定した。FTAは大腿骨軸と脛骨軸,頸体角は頸部軸と骨幹部軸を結ぶ各々のなす角とした。オフセット長は大腿骨軸から大腿骨骨頭中心までの距離とし,脚長差は左右涙痕線下端を結ぶ垂線と小転子最長部の距離の差とした。術側,非術側の膝痛の有無や歩行機能(10m歩行時間,Timed Up and Go;TUG)は,カルテから後方視的に術前と術後2カ月で調査した。統計解析は,正規性を確認の上,術前後の各項目において対応のあるt検定またはWilcoxon符合付順位検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
術側のFTAは術前175.5±2.8°,術後174.9±2.1°,非術側のFTAは術前174.8±3.0°,術後175.0±2.3°,頸体角は術前133.9±8.2°,術後134.4±3.8°,術後オフセットは術前31.7±5.3mm,術後40.1±5.4mm,脚長差は術前17.2±12.9mm,術後2.7±7.9mmであった。10m歩行時間は術前13.2±6.4秒,術後11±2.9秒,TUGは術前13.6±5.1秒,術後11.9±3.4秒でありオフセット長(p<0.01),脚長差(p<0.01)TUG(p<0.01)に有意差がみられた。膝痛は術前10例(33.3%),術後3例(10%)にみられた。膝OAの診断は1例であった。
【結論】
今回の研究で術前後において膝痛は軽減したが,術前後のFTAの角度差はみられず膝アライメントに関係性は得られなかった。これまでに末期股OA症例に対する脚長差の補正は膝OAを予防する。膝痛軽減は,下肢アライメントが変化するため脚延長に伴う軟部組織の伸張改善と歩行中の股関節回旋,足部の接地方向などの修正を要する。術後オフセット長の補正は,術後FTAが正常に近づくことや股関節外転筋がより発揮されやすくなる,といった報告がなされている。これらを踏まえてオフセット長や脚長差に有意差があることから,術前は股関節痛や外転筋力低下が影響し,股関節の安定性が得られず膝に負担がかかっていたが,術後は筋力や歩容が改善され膝の痛みが軽減したのではないかと考えられる。今後は膝痛が下肢アライメントと外転筋力とどのように変化するかさらなる検討が必要と思われる。