第51回日本理学療法学術大会

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一般演題口述

日本運動器理学療法学会 一般演題口述
(運動器)21

Sun. May 29, 2016 10:00 AM - 11:00 AM 第8会場 (札幌コンベンションセンター 2階 206)

座長:田中聡(県立広島大学 保健福祉学部理学療法学科)

[O-MT-21-1] 腰部脊椎症の高齢者における腰背筋断面積と転倒歴との関連

伊藤忠1,2, 酒井義人3, 山﨑一德4, 久保晃2 (1.愛知県三河青い鳥医療療育センター, 2.国際医療福祉大学大学院医療福祉学研究科保健医療学専攻, 3.国立長寿医療研究センター先端診療部脊椎外科, 4.藤田保健衛生大学医療科学部臨床工学科)

Keywords:腰部多裂筋断面積, 転倒, 腰部脊椎症

【はじめに,目的】

我が国では,高齢者に対する転倒予防が課題のひとつとなっている。これまで高齢者の脊椎後弯角度の増加が,転倒と関連していることが明らかにされている。しかし,腰部疾患に罹患した高齢者の場合,脊椎弯曲角度だけでなく,体幹筋や下肢筋量低下などが転倒の原因となり得ることが考えられるが,知見の集積は十分とはいえない。このことから,腰部疾患に罹患した高齢者の転倒予防を立案するには,体幹機能と転倒との関連を明らかにする必要がある。本研究では,入院中の高齢者を対象とし,転倒経験者と未経験者との間で体幹機能や脊椎弯曲角度に差があるかを検討するとともに,これらが転倒と関連しているかを検討した。


【方法】

腰部脊椎症と診断され入院中の65歳以上の高齢者119名のうち,すべての試験を遂行できた102名(年齢74.9±5.3歳,転倒経験者19名,未経験者83名)を対象とした。腰背筋断面積(L1/2およびL4/5高位,脊柱起立筋・腰部多裂筋)・上位・下位胸椎後弯角度・腰椎前弯角度(SYNAPSE,富士フイルムメディカル株式会社),下肢筋量(Lunar DPX-NT,GEヘルスケア・ジャパン株式会社),背筋力,Roland-Morris Disability Questionnaire(RDQ),年齢,身長,体重,転倒スコアを測定し,転倒経験者と未経験者に対象者を分類しt検定を用いて群間比較を行った。さらに,転倒経験の有無を従属変数として,2群間で有意差を認めた項目を独立変数とした尤度比変数減少法による多重ロジスティック回帰分析を行った。解析にはIBM SPSS statistics ver. 19を用い有意水準は5%とした。


【結果】

L4/5腰部多裂筋断面積は,転倒経験者(855.7±309.0mm2)と未経験者(1018.5±309.4 mm2)間で有意差を認めた(p<.05)。転倒経験者(11.1±2.9kg)と未経験者(12.5±2.5kg)間で下肢筋量に有意差を認めた(p<.05)。転倒スコアは,転倒経験者(9.7±2.0点)と未経験者(4.1±2.2点)間で有意な群間差を認めた(p<.01)。身長も有意な群間差を認めた(p<.01)。多重ロジスティック回帰分析の結果,転倒経験と関連する要因として抽出された項目は,L4/5腰部多裂筋断面積(オッズ比=.996,95%信頼区間=.992-1.000,p<.05),転倒スコア(オッズ比=6.209,95%信頼区間=2.211-17.439,p<.01)であった。


【結論】

転倒経験者は未経験者よりも,L4/5腰部多裂筋断面積の減少,下肢筋量の減少,身長が低いことが認められた。転倒経験者は転倒スコアが高値であった。L4/5腰部多裂筋断面積は,転倒スコアと同様に転倒との関連性が確認された。このことから,腰部脊椎症の高齢者は転倒スコアの得点が高く,L4/5腰部多裂筋断面積が減少している者程,転倒リスクが高くなる可能性があるものと考えられる。ただし,本研究は横断調査による結果であるため因果関係まで言及することはできない。今後は縦断調査による検討を実施して,これらの因果関係について詳細に解明されることが期待される。