[O-MT-22-4] 健常成人における胸椎後彎角度と運動器疼痛,姿勢自己認識の関連について
Keywords:健常成人, 胸椎後彎角度, 運動器疼痛
【はじめに,目的】
胸椎後彎の増大はいわゆる「円背」や「猫背」などの不良姿勢として認識されており,一般論として定着しつつある。この度外来理学療法において10~40代の女性患者に胸椎後彎の過少に関連した運動器疼痛が散見された事から,健常成人の胸椎後彎角度を測定し,運動器疼痛や姿勢自己認識との関連について検討したので報告する。
【方法】
対象は当院リハビリテーションセンターに勤務する職員と実習学生48名(男性30名,女性18名)。平均年齢は28.6歳(19~57歳)。
Greendaleら(2011),Barrettら(2013)の方法を参考に,自然立位の対象者の第7頸椎(以下C7)から第12胸椎(以下T12)の脊椎棘突起上に自在曲線定規(シンワ測定株式会社製 40cm 品番74845)を当て胸椎後彎の曲線を得た。曲線をA3用紙上に書き写し,C7とT12を結んだ直線(以下L),Lと曲線の距離(以下H[cm])が最も大きくなるL上の点Xを作図し,C7とXの距離(以下A[cm])とXとT12の距離(以下B[cm])をそれぞれ求めた。以上で求めたH,A,Bから,胸椎後彎角度(以下θ[°])をθ=arc tan(H/A)+arc tan(H/B)の公式で算出した。別途アンケートにより,対象者の運動器疼痛の有無(9項目 いつもある5点~全くない1点の合計9~45点),頸部・腰部自動屈曲・伸展時の疼痛(NRSで0~10の合計0~40),姿勢自己認識(自分は猫背だと思うか,普段気を付けているか)について聴取した。θ,疼痛の有無,NRSは性別,年齢,BMI別にMann-WhitneyのU検定を用いて,姿勢自己認識はχ2検定を用いて比較検討した(危険率5%未満)。
【結果】
胸椎後彎角度θの平均値は20.7°(男性22.7°,女性17.4°)で,女性が有意に小さかった(p<0.01)。疼痛の有無は平均22.0点(男性20.0,女性26.7)で女性が有意に高かった(p<0.001)。NRSは平均4.5(男性3.5,女性6.2)であり女性が有意に高かった(p<0.05)。年齢,BMIでは有意差を認めなかった。姿勢自己認識において自分が猫背だと思う割合には有意差はなく,普段姿勢に気を付けている割合は女性が有意に多かった(p<0.05)。
【結論】
胸椎後彎角度は測定方法による差異もあるが,おおむね20°~40°が正常と報告されている。今回の調査では女性は男性に比べ胸椎後彎角度が小さいにも関わらず,自分が猫背であるとの認識から日常的に「胸を張る」,「背中を伸ばす」などの自己修正を行う傾向があった。これは一般に男性よりも女性が健康,美容意識が高いことが影響していると思われるが,実際の脊椎アライメントと矛盾した自己修正を行っている例も多く,運動器疼痛発症への影響も懸念される。理学療法士は臨床場面において一般論に流されず,個別性に応じた介入や指導が求められる。今後は,対象者を看護介護職員に拡大し調査を継続するほか,姿勢指導や運動療法等の介入で疼痛緩和が可能かどうかについても検討していきたい。
胸椎後彎の増大はいわゆる「円背」や「猫背」などの不良姿勢として認識されており,一般論として定着しつつある。この度外来理学療法において10~40代の女性患者に胸椎後彎の過少に関連した運動器疼痛が散見された事から,健常成人の胸椎後彎角度を測定し,運動器疼痛や姿勢自己認識との関連について検討したので報告する。
【方法】
対象は当院リハビリテーションセンターに勤務する職員と実習学生48名(男性30名,女性18名)。平均年齢は28.6歳(19~57歳)。
Greendaleら(2011),Barrettら(2013)の方法を参考に,自然立位の対象者の第7頸椎(以下C7)から第12胸椎(以下T12)の脊椎棘突起上に自在曲線定規(シンワ測定株式会社製 40cm 品番74845)を当て胸椎後彎の曲線を得た。曲線をA3用紙上に書き写し,C7とT12を結んだ直線(以下L),Lと曲線の距離(以下H[cm])が最も大きくなるL上の点Xを作図し,C7とXの距離(以下A[cm])とXとT12の距離(以下B[cm])をそれぞれ求めた。以上で求めたH,A,Bから,胸椎後彎角度(以下θ[°])をθ=arc tan(H/A)+arc tan(H/B)の公式で算出した。別途アンケートにより,対象者の運動器疼痛の有無(9項目 いつもある5点~全くない1点の合計9~45点),頸部・腰部自動屈曲・伸展時の疼痛(NRSで0~10の合計0~40),姿勢自己認識(自分は猫背だと思うか,普段気を付けているか)について聴取した。θ,疼痛の有無,NRSは性別,年齢,BMI別にMann-WhitneyのU検定を用いて,姿勢自己認識はχ2検定を用いて比較検討した(危険率5%未満)。
【結果】
胸椎後彎角度θの平均値は20.7°(男性22.7°,女性17.4°)で,女性が有意に小さかった(p<0.01)。疼痛の有無は平均22.0点(男性20.0,女性26.7)で女性が有意に高かった(p<0.001)。NRSは平均4.5(男性3.5,女性6.2)であり女性が有意に高かった(p<0.05)。年齢,BMIでは有意差を認めなかった。姿勢自己認識において自分が猫背だと思う割合には有意差はなく,普段姿勢に気を付けている割合は女性が有意に多かった(p<0.05)。
【結論】
胸椎後彎角度は測定方法による差異もあるが,おおむね20°~40°が正常と報告されている。今回の調査では女性は男性に比べ胸椎後彎角度が小さいにも関わらず,自分が猫背であるとの認識から日常的に「胸を張る」,「背中を伸ばす」などの自己修正を行う傾向があった。これは一般に男性よりも女性が健康,美容意識が高いことが影響していると思われるが,実際の脊椎アライメントと矛盾した自己修正を行っている例も多く,運動器疼痛発症への影響も懸念される。理学療法士は臨床場面において一般論に流されず,個別性に応じた介入や指導が求められる。今後は,対象者を看護介護職員に拡大し調査を継続するほか,姿勢指導や運動療法等の介入で疼痛緩和が可能かどうかについても検討していきたい。