第51回日本理学療法学術大会

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一般演題口述

日本神経理学療法学会 一般演題口述
(神経)05

Sat. May 28, 2016 10:00 AM - 11:00 AM 第4会場 (札幌コンベンションセンター 1階 107+108)

座長:吉尾雅春(千里リハビリテーション病院)

[O-NV-05-4] 映像遅延装置を用いた道具使用と視覚の不一致検出特性の調査

失行症における身体意識の定量的評価の確立に向けて

信迫悟志1, 硲美穂2, 大住倫弘1, 森岡周1 (1.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター, 2.畿央大学健康科学部理学療法学科)

Keywords:失行症, 映像遅延装置, 道具使用

【目的】失行症患者では,身体意識(身体所有感,運動主体感)が障害されていることが示唆されている(Pazzaglia, 2014)。身体意識を測定する方法としてラバーハンド錯覚が存在するが,失行症を有する患者では理解が困難である可能性が高く,より客観的かつ定量的な評価を確立することが,失行症の病態解明と介入方法の開発に必要である。そこで本研究では,身体意識を客観的かつ定量的に評価する手法として,映像遅延装置を用いた運動と視覚の時間的不一致検出課題(Shimada, 2010)を用いて,健常者を対象に,失行症で障害される道具使用と視覚の不一致検出特性について調査した。同時に,道具使用の時間的不一致検出特性と質問紙による身体意識との関係性を調査した。


【方法】対象は健常成人20名(平均21.4歳±1.3,男性10名,女性10名)とした。課題条件は,条件1.能動運動と視覚の時間的不一致検出課題,条件2.道具使用と視覚の時間的不一致検出課題(道具と手の視覚フィードバックあり),条件3.道具使用と視覚の時間的不一致検出課題(道具の視覚フィードバックあり,手の視覚フィードバックなし)の3条件とした。道具には,鋏を使用した。時間的不一致検出課題には,映像遅延装置(朋英YEMエレテックス社製EDS-3306)を使用した。被験者には,実際の能動運動・道具使用に対する視覚フィードバックの時間的一致・不一致について回答することが求められた。そこから不一致検出確率が50%となる主観的等価点(PSE)と不一致検出曲線の勾配(a)を算出した。また各条件実施後に,各条件の身体所有感と運動主体感について,7件法の質問紙を用いて調査した。統計学的検討には一元配置分散分析を実施し,事後検定にはBonferroni法による多重比較を実施した。


【結果】PSEは,条件1と比較して条件3において,有意な遅延を認めた(p<0.05)が,条件2とは有意差を認めなかった。aは3群間に有意差を認めなかった。身体所有感は,条件1と比較して条件2・3において,有意な低下を認めた(p<0.01)。運動主体感は,3群間に有意差を認めなかった。

【結論】道具使用と視覚の不一致検出特性として,手の視覚フィードバックのある道具使用のPSEとaは,能動運動と差がないことが判明した。PSEと質問紙における身体所有感との解離について,身体意識は階層構造を有しており(Synofzik, 2008),PSEやaは最下層の感覚運動レベルによる身体意識であるが,質問紙では高次な命題的(概念的)レベルによる身体意識により,解離が生じたものと考えられる。このことから,映像遅延装置を用いた時間的不一致検出課題は,主観的内省の如何に関わらず,感覚運動レベルの身体意識を客観的かつ定量的に測定することが可能であり,失行症における身体意識障害の評価に有用であることが示唆された。