[O-NV-07-1] 車椅子駆動が脊髄損傷後の神経障害性疼痛と安静時脳波活動に与える影響
キーワード:脊髄損傷, 神経障害性疼痛, 脳波
【目的】脊髄損傷(SCI)後の二次的障害の一つに疼痛があり,抑うつや慢性疲労,破局的思考に関連し全般的な健康指標の低下を引き起こす。神経障害性疼痛(NP)を有するSCI者の安静時の脳波活動では,peak alpha frequency(PAF)が低周波域へ偏位することが報告されており(Boord 2008),NPのバイオマーカーとして知られている。一方で,有酸素運動がPAFを高周波域へ偏位させることや(Gutmann 2015),SCI後のNPを軽減させることが報告されているが(Norribrink 2012),実際にSCI者の運動が疼痛と安静時脳波に及ぼす影響を調べた研究はない。そこで,本研究では車椅子駆動(WP)によりPAFを増加させることでNPが減少するかを調べることを目的とした。
【方法】実験にはNPがあるSCI者10名が参加した。被験者は15分間のWPを行った。疼痛の評価は,WP前とWP中の5・10・15分経過時点・WP後5・10分で主観的疼痛強度をNRSを用いて測定した。気分の評価は,日本語版POMS-Bを使用しWP前後で調べた。加えて,慢性疲労はCFS,破局的思考はPCSをWP前に測定した。安静時の脳波活動の測定は,デジタル脳波計(32ch)を使用し,WP前・WP中15分・WP後10分で3分間の安静閉眼状態を測定した。脳波分析はRegion of interest(ROIs)を前頭・中心・頭頂・後頭領域とし,各ROIsでα帯域(8-13Hz)でのpower値が最大となる周波数を示したPAFを求めた。統計解析は,WP前後のNRSをFriedman testと事後検定にScheffe's methodを使用し,POMS-BはWP前後で下位項目ごとにWilcoxon signed rank testで比較した。NRSの変化率とWP前のCFSとPCSの間でSpearman順位相関係数を求めた。脳波については各ROIsでのPAFをpaired t-testで比較した。なお,有意水準はすべて5%とした。
【結果】NRSは,WPの時間で有意差が認められた。事後検定では,WP前[中央値(四分位範囲)=2(3.25-4.75)]と比較してWP中15分[2(0.25-2)]で有意に減少した。POMS-Bの下位項目の比較では,「抑うつ」は[WP前0.5(0.1),WP後10分0(0)],「敵意-怒り」は[WP前0.5(0-1.75),WP後10分0(0)]であり両項目においてWP後に有意に減少した。NRSの変化率と心理的評価の相関では,CFSの「精神的疲労」の項目との間でのみ有意な負の相関関係(rs=-0.63)であった。PAFにおいて,WP前と比較して,前頭領域ではWP中15分およびWP後10分で有意に増加し[WP前の平均±標準偏差=9.8±0.86,WP中15分10.0±1.0Hz,WP後10分9.98±0.94Hz],中心領域ではWP中15分で有意な増加が認められた[WP前9.8±0.86,WP中15分10.07±0.76Hz]。
【結論】今回,WPによりPAFが増加しSCI後の疼痛と気分が改善することが示唆された。加えて,精神的疲労が少ないSCI者ほど運動によるNPの軽減が認められた。運動によってPAFの増加とNPが改善したことから,疼痛のような主観的な体験をPAFというバイオマーカーで定量的に評価することはSCI後のNPに対する運動療法の効果判定に有用であることが示唆される。
【方法】実験にはNPがあるSCI者10名が参加した。被験者は15分間のWPを行った。疼痛の評価は,WP前とWP中の5・10・15分経過時点・WP後5・10分で主観的疼痛強度をNRSを用いて測定した。気分の評価は,日本語版POMS-Bを使用しWP前後で調べた。加えて,慢性疲労はCFS,破局的思考はPCSをWP前に測定した。安静時の脳波活動の測定は,デジタル脳波計(32ch)を使用し,WP前・WP中15分・WP後10分で3分間の安静閉眼状態を測定した。脳波分析はRegion of interest(ROIs)を前頭・中心・頭頂・後頭領域とし,各ROIsでα帯域(8-13Hz)でのpower値が最大となる周波数を示したPAFを求めた。統計解析は,WP前後のNRSをFriedman testと事後検定にScheffe's methodを使用し,POMS-BはWP前後で下位項目ごとにWilcoxon signed rank testで比較した。NRSの変化率とWP前のCFSとPCSの間でSpearman順位相関係数を求めた。脳波については各ROIsでのPAFをpaired t-testで比較した。なお,有意水準はすべて5%とした。
【結果】NRSは,WPの時間で有意差が認められた。事後検定では,WP前[中央値(四分位範囲)=2(3.25-4.75)]と比較してWP中15分[2(0.25-2)]で有意に減少した。POMS-Bの下位項目の比較では,「抑うつ」は[WP前0.5(0.1),WP後10分0(0)],「敵意-怒り」は[WP前0.5(0-1.75),WP後10分0(0)]であり両項目においてWP後に有意に減少した。NRSの変化率と心理的評価の相関では,CFSの「精神的疲労」の項目との間でのみ有意な負の相関関係(rs=-0.63)であった。PAFにおいて,WP前と比較して,前頭領域ではWP中15分およびWP後10分で有意に増加し[WP前の平均±標準偏差=9.8±0.86,WP中15分10.0±1.0Hz,WP後10分9.98±0.94Hz],中心領域ではWP中15分で有意な増加が認められた[WP前9.8±0.86,WP中15分10.07±0.76Hz]。
【結論】今回,WPによりPAFが増加しSCI後の疼痛と気分が改善することが示唆された。加えて,精神的疲労が少ないSCI者ほど運動によるNPの軽減が認められた。運動によってPAFの増加とNPが改善したことから,疼痛のような主観的な体験をPAFというバイオマーカーで定量的に評価することはSCI後のNPに対する運動療法の効果判定に有用であることが示唆される。