第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本神経理学療法学会 一般演題口述
(神経)08

2016年5月28日(土) 11:10 〜 12:10 第8会場 (札幌コンベンションセンター 2階 206)

座長:奥田憲一(医療福祉センター聖ヨゼフ園 リハビリテーション部)

[O-NV-08-5] TPPV管理の神経筋疾患患者における肺コンプライアンス測定の検者内・検者間の相対信頼性と絶対信頼性の検討

佐藤善信1, 布原史翔1, 石蔵政昭2, 影山佳世2, 星井輝之1, 岩﨑洋一1 (1.国立病院機構広島西医療センターリハビリテーション科, 2.国立病院機構広島西医療センター臨床工学室)

キーワード:肺コンプライアンス, 神経筋疾患, 信頼性

【はじめに,目的】

人工呼吸器を使用している神経筋疾患患者において,人工呼吸器から臨床上多くの有益な情報を得ることができる。人工呼吸器で管理された患者の肺コンプライアンスを測定する方法の一つに,吸気終末ポーズ法がある。この測定方法を用いた先行研究では,相対信頼性である級内相関係数(ICC)を用いて高い信頼性が報告されているが(横山ら,2007),絶対信頼性の検討は見当たらない。

今回,気管切開下陽圧換気(TPPV)で管理された神経筋疾患患者において,吸気終末ポーズ法を用いた肺コンプライアンス測定の検者内・検者間の相対信頼性と絶対信頼性の検討を行い,さらに高い信頼性を保証するために必要な測定回数を横断的に検討することを目的とした。


【方法】

対象は,除外基準に該当しない当院入院中のTPPVで管理されたALS18例,DMD4例,FCMD7例,その他の神経筋疾患2例の計31例である。

肺コンプライアンス測定としては,人工呼吸器LTV1200から吸気終末ポーズ圧(EIP)を測定し,表示パネルから呼気一回換気量,最高気道内圧(PIP),呼気終末陽圧(PEEP)を読み取った。これらの値を数式に代入して動的肺コンプライアンス(Cdy)と静的肺コンプライアンス(Cst)を算出した(ml/cmH2O)。以上の方法を検者内は2回,検者間は1回ずつ同一対象者に対して同一日に少なくとも5分以上の間隔をおき測定を行った。検者内・検者間信頼性を検討する方法は,ICCを用いた。また,絶対信頼性として系統誤差の有無の検討にBland-Altman分析を用い,測定誤差の検討には測定の標準誤差(SEM)や最小可検変化量(MDC)を算出した。さらに,高い信頼性(ICC0.81以上)に必要な測定回数については,Spearman-Brownの公式を用いた。統計ソフトにはSPSS17.0J for Windowsを使用し,検定における有意水準は5%未満とした。


【結果】

Cdy,Cstの検者内信頼性は,それぞれICCは0.98,0.90でBland-Altman分析より系統誤差は認めなかった。またSEMは,Cdy1.63,Cst5.20,MDCは,Cdy4.51,Cst14.43であった(ml/cmH2O)。Spearman-Brownの公式からK値は,Cdy0.10,Cst0.50であった。一方Cdy,Cstの検者間信頼性は,それぞれICCは0.98,0.91で系統誤差は認めなかった。またSEMは,Cdy1.40,Cst5.09,MDCは,Cdy3.87,Cst14.11であった(ml/cmH2O)。K値は,Cdy0.08,Cst0.43であった。


【結論】

検者内・検者間のICCは,Cdy,Cstいずれも先行研究と同様に高値を示した。絶対信頼性においても,Cdy,Cstいずれも系統誤差は認めず,SEMも低いと考えられた。また,MDCの算出により測定値の変動が「真の変化」によるものかを判断する基準が示された。さらに,検者内・検者間のCdy,Cst測定は,いずれにおいても1回で十分であると示唆された。以上のことから,TPPV管理の神経筋疾患患者における吸気終末ポーズ法を用いた肺コンプライアンス測定は,信頼性に優れる評価指標であると示された。