[O-NV-09-4] 歩行速度変化率の基準値に到達しない脳卒中片麻痺患者の決定因子
基準値に達するか否かから算出される因子の比較
キーワード:歩行速度変化率, 基準値, 脳卒中片麻痺患者
【はじめに,目的】
脳卒中片麻痺患者の歩行において歩行速度向上への戦略は多様に存在し,また症例によっても異なる。歩行速度は日常の活動範囲や社会活動の内容と関連しており参加制約に直結する重要な課題であるが,臨床ではどの基準に達するまで歩行速度の向上を図るべきか明確にされていない。そのため理学療法介入における歩行速度の目標が,担当セラピストの臨床経験に委ねられていることが多い。Bohannonは「最大歩行速度は快適歩行速度の約1.4倍の速度である」と報告しており,この歩行速度変化率の基準を目標にすることで対象者間の目標が明確になると考えている。しかしながら,臨床場面ではその基準に到達しない症例が散見されており,歩行速度変化率は片麻痺患者の諸機能により変動する可能性がある。本研究の目的は,歩行速度変化率の基準値に到達しない脳卒中片麻痺患者の要因を検討し,関係性を明らかにすることである。
【方法】
対象は脳卒中片麻痺患者17名とした。取り込み基準は介助なく10m歩行が可能であり,FIMコミュニケーション理解項目が6点以上とした。除外基準はテスト遂行に支障をきたすような高次脳機能障害を有するもの,麻痺以外の影響で歩行能力に影響を及ぼすような骨関節疾患や内部障害の既往を有するものとした。測定項目は10m歩行時の快適および最大歩行速度,歩数,下肢Brunnstrom Recovery stage(BRS),下肢荷重率,Functional Reach test,麻痺側股関節伸展可動域,麻痺側足関節背屈可動域,FIM移動項目とした。測定は介入による影響が反映されないよう測定日の初介入時に行い,疲労感がBorgスケールで11未満である場合に実施した。統計学的検討は統計解析ソフトJSTATを使用し,到達群および未到達群の比較としてMann-WhitneyのU検定,各測定項目の相関関係としてSpearmanの順位相関係数を行った。なお,統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】
歩行速度変化率の基準値に到達した被験者は8名,未到達者は9名であった。群間比較ではBRS(p<0.01),麻痺側足関節背屈可動域,最大歩行速度,最大歩行歩数(p<0.05)において有意差を認めた。BRSは歩行速度変化率と最も強い相関を認めた(r=0.846)。
【結論】
検証の結果,BRSが脳卒中片麻痺患者の歩行速度変化率に寄与する決定因子であることが示唆された。片麻痺患者の運動時の特徴として共同運動が挙げられるが,共同運動の程度と歩行速度は相関していることから,分離性の乏しい段階では歩行速度を変化させることが困難であったと考える。Dorschらは,片麻痺患者の歩行速度に最も関わる下肢筋群は足関節背屈筋の筋力であると報告している。BRSにおいて,足関節の背屈が可能であるかが段階付けの至要な因子であることから,有意な差が認められたと考える。本研究結果より,歩行速度変化率に寄与する主要な因子は麻痺側の分離性であることが示された。
脳卒中片麻痺患者の歩行において歩行速度向上への戦略は多様に存在し,また症例によっても異なる。歩行速度は日常の活動範囲や社会活動の内容と関連しており参加制約に直結する重要な課題であるが,臨床ではどの基準に達するまで歩行速度の向上を図るべきか明確にされていない。そのため理学療法介入における歩行速度の目標が,担当セラピストの臨床経験に委ねられていることが多い。Bohannonは「最大歩行速度は快適歩行速度の約1.4倍の速度である」と報告しており,この歩行速度変化率の基準を目標にすることで対象者間の目標が明確になると考えている。しかしながら,臨床場面ではその基準に到達しない症例が散見されており,歩行速度変化率は片麻痺患者の諸機能により変動する可能性がある。本研究の目的は,歩行速度変化率の基準値に到達しない脳卒中片麻痺患者の要因を検討し,関係性を明らかにすることである。
【方法】
対象は脳卒中片麻痺患者17名とした。取り込み基準は介助なく10m歩行が可能であり,FIMコミュニケーション理解項目が6点以上とした。除外基準はテスト遂行に支障をきたすような高次脳機能障害を有するもの,麻痺以外の影響で歩行能力に影響を及ぼすような骨関節疾患や内部障害の既往を有するものとした。測定項目は10m歩行時の快適および最大歩行速度,歩数,下肢Brunnstrom Recovery stage(BRS),下肢荷重率,Functional Reach test,麻痺側股関節伸展可動域,麻痺側足関節背屈可動域,FIM移動項目とした。測定は介入による影響が反映されないよう測定日の初介入時に行い,疲労感がBorgスケールで11未満である場合に実施した。統計学的検討は統計解析ソフトJSTATを使用し,到達群および未到達群の比較としてMann-WhitneyのU検定,各測定項目の相関関係としてSpearmanの順位相関係数を行った。なお,統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】
歩行速度変化率の基準値に到達した被験者は8名,未到達者は9名であった。群間比較ではBRS(p<0.01),麻痺側足関節背屈可動域,最大歩行速度,最大歩行歩数(p<0.05)において有意差を認めた。BRSは歩行速度変化率と最も強い相関を認めた(r=0.846)。
【結論】
検証の結果,BRSが脳卒中片麻痺患者の歩行速度変化率に寄与する決定因子であることが示唆された。片麻痺患者の運動時の特徴として共同運動が挙げられるが,共同運動の程度と歩行速度は相関していることから,分離性の乏しい段階では歩行速度を変化させることが困難であったと考える。Dorschらは,片麻痺患者の歩行速度に最も関わる下肢筋群は足関節背屈筋の筋力であると報告している。BRSにおいて,足関節の背屈が可能であるかが段階付けの至要な因子であることから,有意な差が認められたと考える。本研究結果より,歩行速度変化率に寄与する主要な因子は麻痺側の分離性であることが示された。