[O-NV-10-3] 脊髄刺激療法により運動機能の改善を認めた視床痛の症例
Keywords:脊髄刺激療法, 運動機能, 視床痛
【はじめに,目的】
近年,整形外科疾患や中枢性疾患の難治性疼痛に対する脊髄刺激療法が選択されるようになり,疼痛の改善報告も散見される。今回,視床出血後の左半身の強い視床痛に対し脊髄刺激療法を施行した症例の評価・治療に携わり,疼痛の改善はわずかであったものの運動機能の改善を認めたため,ここに報告する。
【方法】
平成21年に視床出血・左不全片麻痺を発症した59歳の男性。Brunnstrom recovery stage all VI,ロフストランド杖を使用しADL自立まで回復したが,発症後約半年頃より,左半身の灼け付く様な疼痛を感じるようになった。他院にて様々な疼痛治療を行ったが効果がなく,今回当院にて脊髄刺激療法を試行することとなった。平成27年8月に電極試験埋め込み術を行い良好な結果を得たため,同年10月に本埋め込み術を行った。
【結果】
試験埋め込み前評価は,左半身の疼痛がNeumeric rating scale(NRS)にて9~10,左自動足関節可動域(ROM)背屈7°/底屈20°,左他動ROM背屈10°/底屈32°,Modified Ashworth Scale(MAS)左上腕二頭筋1,左腓腹筋2,足クローヌス(±),Functional Balance Scale(FBS)48点(リーチ33.5cm),Timed Up & Go test(TUG)9.87秒(左下肢の支持不良)であった。上肢の脊髄刺激は不快感の訴えが強く,試験中に中止となった。本埋め込み時の下肢の電極はTh8-10レベルであった。刺激強度3.6v,パルス幅210msec,刺激頻度2Hz(Aモード)が症例にとって快適であり,刺激強度2.5v,パルス幅210msec,刺激頻度80Hz(Bモード)が動作の安定性に最適と判断。Aモード時,疼痛はNRS8~9,左自動ROM背屈21°/底屈45°,左他動ROM背屈24°/底屈45°,MAS左上腕二頭筋0,左腓腹筋1,足クローヌス(-),FBS50点(リーチ44.5cm),TUG8.50秒(左下肢の振り出し滑らか)であった。また,症例からは歩行時,「痛みは変わらないけど,足首がよく動くようになって歩きやすい。」という言葉を頂いた。
【結論】
視床痛に対し脊髄刺激療法を施行した結果,MASやROM,歩行速度等の改善を認めた。治療的電気刺激では一般的に,低頻度(0.5-10Hz)は抑制的に働き,高頻度(10-100Hz)は促通的に働くとされている。低頻度のAモードでは,疼痛改善はわずかであったが運動機能の改善を認めた。治療的電気刺激を用いた単シナプス反射経路の抑制による筋緊張の緩和と同様の結果が,脊髄刺激療法でも得られたと考える。筋緊張の緩和の結果,可動域が改善しリーチ距離も延長したが,動作場面では不安定さが残っていた。一方で高頻度のBモードでは,動作時の支持性と円滑さの調和がとれ,歩行時の不安定さは改善したが,疼痛の改善には至らなかった。そのため,活動に応じた刺激を設定し使い分けることも重要と考える。今回の結果より,脊髄刺激療法は脳血管疾患発症後の難治性疼痛の改善のためだけでなく,運動機能回復のための治療選択肢の一つとして期待できる可能性が示唆された。
近年,整形外科疾患や中枢性疾患の難治性疼痛に対する脊髄刺激療法が選択されるようになり,疼痛の改善報告も散見される。今回,視床出血後の左半身の強い視床痛に対し脊髄刺激療法を施行した症例の評価・治療に携わり,疼痛の改善はわずかであったものの運動機能の改善を認めたため,ここに報告する。
【方法】
平成21年に視床出血・左不全片麻痺を発症した59歳の男性。Brunnstrom recovery stage all VI,ロフストランド杖を使用しADL自立まで回復したが,発症後約半年頃より,左半身の灼け付く様な疼痛を感じるようになった。他院にて様々な疼痛治療を行ったが効果がなく,今回当院にて脊髄刺激療法を試行することとなった。平成27年8月に電極試験埋め込み術を行い良好な結果を得たため,同年10月に本埋め込み術を行った。
【結果】
試験埋め込み前評価は,左半身の疼痛がNeumeric rating scale(NRS)にて9~10,左自動足関節可動域(ROM)背屈7°/底屈20°,左他動ROM背屈10°/底屈32°,Modified Ashworth Scale(MAS)左上腕二頭筋1,左腓腹筋2,足クローヌス(±),Functional Balance Scale(FBS)48点(リーチ33.5cm),Timed Up & Go test(TUG)9.87秒(左下肢の支持不良)であった。上肢の脊髄刺激は不快感の訴えが強く,試験中に中止となった。本埋め込み時の下肢の電極はTh8-10レベルであった。刺激強度3.6v,パルス幅210msec,刺激頻度2Hz(Aモード)が症例にとって快適であり,刺激強度2.5v,パルス幅210msec,刺激頻度80Hz(Bモード)が動作の安定性に最適と判断。Aモード時,疼痛はNRS8~9,左自動ROM背屈21°/底屈45°,左他動ROM背屈24°/底屈45°,MAS左上腕二頭筋0,左腓腹筋1,足クローヌス(-),FBS50点(リーチ44.5cm),TUG8.50秒(左下肢の振り出し滑らか)であった。また,症例からは歩行時,「痛みは変わらないけど,足首がよく動くようになって歩きやすい。」という言葉を頂いた。
【結論】
視床痛に対し脊髄刺激療法を施行した結果,MASやROM,歩行速度等の改善を認めた。治療的電気刺激では一般的に,低頻度(0.5-10Hz)は抑制的に働き,高頻度(10-100Hz)は促通的に働くとされている。低頻度のAモードでは,疼痛改善はわずかであったが運動機能の改善を認めた。治療的電気刺激を用いた単シナプス反射経路の抑制による筋緊張の緩和と同様の結果が,脊髄刺激療法でも得られたと考える。筋緊張の緩和の結果,可動域が改善しリーチ距離も延長したが,動作場面では不安定さが残っていた。一方で高頻度のBモードでは,動作時の支持性と円滑さの調和がとれ,歩行時の不安定さは改善したが,疼痛の改善には至らなかった。そのため,活動に応じた刺激を設定し使い分けることも重要と考える。今回の結果より,脊髄刺激療法は脳血管疾患発症後の難治性疼痛の改善のためだけでなく,運動機能回復のための治療選択肢の一つとして期待できる可能性が示唆された。