第51回日本理学療法学術大会

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一般演題口述

日本神経理学療法学会 一般演題口述
(神経)10

Sat. May 28, 2016 1:40 PM - 2:40 PM 第8会場 (札幌コンベンションセンター 2階 206)

座長:大槻利夫(上伊那生協病院 リハビリテーション課)

[O-NV-10-6] 脳幹部脳卒中患者において赤核周囲の損傷の有無が歩行獲得に及ぼす影響

山口祐太郎1, 乾哲也2, 出口靖治1, 吉尾雅春2 (1.脳神経リハビリ北大路病院, 2.千里リハビリテーション病院)

Keywords:赤核損傷, 運動失調, 歩行機能

【はじめに】臨床現場において赤核損傷患者は運動麻痺が重度でなくても歩行をはじめとする動作獲得に難渋することを経験する。赤核は筋紡錘,腱紡錘からの刺激を小脳を介して受け,赤核脊髄路にて四肢の運動を円滑にする。また運動前野から赤核・下オリーブ核・外側網様核・小脳そして一次運動野,運動前野へ至り運動誤差を修正するシステムがある。赤核が損傷するとこれらのシステム障害が生じると考えられる。そこで,赤核を中心とし脳幹病変の位置が歩行機能をはじめ身体機能にどのように影響したか調査した。



【方法】対象は脳幹部脳卒中患者31名(出血性病変9名,梗塞性病変22名),平均年齢67.6(45-91)歳,男性21名,女性10名であった。病変位置は回復期リハビリテーション病棟入院時のCT又はMRI画像で確認した。解剖学的位置関係を考慮し,中脳上丘,赤核が撮像される大脳脚レベルから橋上部が撮像されるペンタゴンレベルの間で赤核又は赤核直下の損傷が確認できると赤核周囲に損傷ありとした。それ以外の脳幹病変は赤核周囲に損傷なしとして2群に分類した。症状から運動失調に前庭系による平衡障害を伴うか否か評価した。運動麻痺の程度は下肢Brunnstrom stage(以下;BRS)を用いた。既往歴に脳血管疾患や歩行障害となる整形外科疾患,内部疾患を合併している症例は除外した。歩行の可否は退院時に日常生活を歩行で移動していると歩行可能と判断した。統計学的解析はStatcel3を用いフィッシャーの直接確率計算法にて,赤核周囲の損傷と歩行の可否,失調症状の有無について関連性を検定した。2群の年齢の差にはスチューデントのt検定を用いた。有意水準はいずれもp<0.05とした。



【結果】赤核周囲に損傷がみられたのは中脳・橋・延髄出血1名,橋出血4名,橋・中脳梗塞2名の計7名,平均年齢61.0(46-84)歳,歩行可能は2名(29%),失調症状は6名(86%)に認めた。前庭系による平衡障害は認めなかった。BRSはII1名(13%),IV2名(29%),V2名(29%),VI2名(29%)。歩行可能であった2名は50歳代後半と60歳代前半の橋出血であった。失調は認めたがBRSVIであり運動麻痺は認めなかった。赤核周囲に損傷がなかったのは橋梗塞12名,橋出血4名,延髄梗塞8名の計24名,平均年齢69.5(45-91)歳,全例歩行可能であった(杖歩行,歩行器歩行を含む)。失調症状は7名(29%)に認め,1名は前庭系による平衡障害を伴った。BRSはV5名(21%),VI19名(79%)であった。統計学的解析の結果,赤核周囲を損傷していると歩行獲得が困難となりやすく,失調症状が出現しやすい結果となった。2群の年齢に有意差は認めなかった。



【結論】赤核周囲に損傷があると運動麻痺は重度でなくても多彩な失調症状が出現し歩行獲得に至りにくかった。大脳小脳神経回路,脊髄小脳神経回路,赤核オリーブ路などの線維が入出する赤核周囲が損傷すると,運動遂行におけるfeed forward,feed backシステム障害や小脳のエラー信号処理に支障をきたす可能性が高く,歩行獲得に影響を及ぼすと考える。