[O-NV-11-4] 脳卒中片麻痺患者に対する下肢ボツリヌス療法後の歩行時筋活動及び時間距離因子の変化
Keywords:脳卒中, ボツリヌス, 筋電図
【はじめに,目的】脳卒中片麻痺患者の下肢痙縮に対するA型ボツリヌス毒素製剤(以下,Botox)投与の効果に関する報告は,歩行速度などの簡易的な評価による報告が多く,Botoxが歩行に与える影響は不明な点が多い。本研究は,筋電計を用いてBotoxが歩行に与える影響を詳細に分析することを目的とした。
【方法】対象は脳卒中発症後6か月以上が経過している15例(年齢:59(41-75)歳,下肢Fugl Meyer assesment:21(15-25)点,MAS:2(1-3))。Botoxは麻痺側の腓腹筋,ヒラメ筋,後脛骨筋に計300単位投与し,足趾屈曲筋の痙縮が強い者に対しては,他筋への投与量を減量させ長趾屈筋,長母趾屈筋に投与した。評価はBotox投与の直前および2週後に実施し,筋活動評価はTelemyo DTS(Noraxon U.S.A. Inc.社製,サンプリング周波数1500Hz,計測周波数帯域10~500Hz)を用い,麻痺側の前脛骨筋,ヒラメ筋,腓腹筋,大腿直筋,大腿二頭筋に銀塩化銀表面電極を貼付した。また,時間距離因子(歩行周期,歩幅,ストライド)を測定する為に,両足底にフットスイッチを貼付,歩行路の側方にビデオカメラを設置し,筋電図に同期させた。筋電図は生波形を全波整流した後に,フットスイッチデータを基準に9歩行周期(3歩行周期×3試行分)を加算平均した。次に歩行周期割合(荷重応答期,単脚支持期,前遊脚期,遊脚期)を求め,各歩行相の平均振幅を1歩行周期全体の平均振幅で除することで各歩行相の相対的な筋活動(以下,%Avg)を算出した。また,前脛骨筋と腓腹筋および大腿直筋と大腿二頭筋のCoactivation Index(以下,CoI)を算出した。統計は,各評価データをBotox投与前,投与2週後においてWilcoxon signed-rank testにより危険率5%で比較した。
【結果】Botox投与後において,%Avgは前脛骨筋が荷重応答期において有意に増加(97.3-111.0%),ヒラメ筋は荷重応答期で有意に減少(176.3-142.4%)し,前遊脚期で有意に増加(71.3-86.7%)した。大腿直筋では,前遊脚期で有意に減少した(83.5-65.6%)。大腿直筋と大腿二頭筋のCoIは,荷重応答期において有意に増大(112.9-129.5%)した。時間的因子は,荷重応答期割合が有意に減少(15.1-14.2%),単脚支持期割合が有意に増加(26.6-27.5%)し,両脚支持期割合が有意に減少(33.8-32.4%)した。
【結論】痙縮を有する脳卒中患者では,荷重応答期においてヒラメ筋が早発的に活動するが,Botoxにより痙縮が抑制されたことで異常な早発性活動が減少した。さらに拮抗筋である前脛骨筋や膝関節筋においても筋活動変化が認められた。時間距離因子では,歩幅などに変化は認められず,歩行周期割合において有意差は認められたものの,その変化量は小さい。本研究において,下肢筋活動の正常化が認められたが,Botox投与のみでは歩行能力が著明に改善する可能性は低い。
【方法】対象は脳卒中発症後6か月以上が経過している15例(年齢:59(41-75)歳,下肢Fugl Meyer assesment:21(15-25)点,MAS:2(1-3))。Botoxは麻痺側の腓腹筋,ヒラメ筋,後脛骨筋に計300単位投与し,足趾屈曲筋の痙縮が強い者に対しては,他筋への投与量を減量させ長趾屈筋,長母趾屈筋に投与した。評価はBotox投与の直前および2週後に実施し,筋活動評価はTelemyo DTS(Noraxon U.S.A. Inc.社製,サンプリング周波数1500Hz,計測周波数帯域10~500Hz)を用い,麻痺側の前脛骨筋,ヒラメ筋,腓腹筋,大腿直筋,大腿二頭筋に銀塩化銀表面電極を貼付した。また,時間距離因子(歩行周期,歩幅,ストライド)を測定する為に,両足底にフットスイッチを貼付,歩行路の側方にビデオカメラを設置し,筋電図に同期させた。筋電図は生波形を全波整流した後に,フットスイッチデータを基準に9歩行周期(3歩行周期×3試行分)を加算平均した。次に歩行周期割合(荷重応答期,単脚支持期,前遊脚期,遊脚期)を求め,各歩行相の平均振幅を1歩行周期全体の平均振幅で除することで各歩行相の相対的な筋活動(以下,%Avg)を算出した。また,前脛骨筋と腓腹筋および大腿直筋と大腿二頭筋のCoactivation Index(以下,CoI)を算出した。統計は,各評価データをBotox投与前,投与2週後においてWilcoxon signed-rank testにより危険率5%で比較した。
【結果】Botox投与後において,%Avgは前脛骨筋が荷重応答期において有意に増加(97.3-111.0%),ヒラメ筋は荷重応答期で有意に減少(176.3-142.4%)し,前遊脚期で有意に増加(71.3-86.7%)した。大腿直筋では,前遊脚期で有意に減少した(83.5-65.6%)。大腿直筋と大腿二頭筋のCoIは,荷重応答期において有意に増大(112.9-129.5%)した。時間的因子は,荷重応答期割合が有意に減少(15.1-14.2%),単脚支持期割合が有意に増加(26.6-27.5%)し,両脚支持期割合が有意に減少(33.8-32.4%)した。
【結論】痙縮を有する脳卒中患者では,荷重応答期においてヒラメ筋が早発的に活動するが,Botoxにより痙縮が抑制されたことで異常な早発性活動が減少した。さらに拮抗筋である前脛骨筋や膝関節筋においても筋活動変化が認められた。時間距離因子では,歩幅などに変化は認められず,歩行周期割合において有意差は認められたものの,その変化量は小さい。本研究において,下肢筋活動の正常化が認められたが,Botox投与のみでは歩行能力が著明に改善する可能性は低い。