[O-NV-13-1] 回復期脳卒中患者の歩行能力に対する前庭リハビリテーションの長期的効果
―ランダム化比較対照試験―
キーワード:脳卒中患者, 前庭リハビリテーション, 歩行能力
【目的】
脳卒中患者は日常生活において方向転換や振り向き動作などの頸部運動を含む応用歩行で極端に姿勢制御機能が低下する。この一要因として,眼球運動や頸部回旋運動に伴う前庭覚の反射機能が影響している。特に,前庭動眼反射は頸部運動による視覚の安定に作用し,応用歩行と密接な関係が報告されている(Honaker,2013)。しかし,脳卒中患者の前庭覚への介入が歩行能力に及ぼす効果を調査した臨床研究は少ない。本研究の目的は回復期脳卒中患者に対する前庭リハビリテーションが歩行能力に与える影響を検討することである。
【方法】
対象は2014年3月から2015年9月までの回復期脳卒中患者とした。適応基準は初発の脳卒中患者であり,回復期リハ病棟に入院していること,指示理解が良好であること,歩行に介助が必要ないものとし,これらの条件を満たした対象者は21名であった。研究デザインはランダム化比較対照試験とし,対象者をExcelのRAND関数(Microsoft社製)を用いてA群とB群に無作為に分類した。両群の研究期間は6週間とした。A群は前庭リハビリテーションを3週間実施した後,通常の理学療法を3週間行うこととし,B群は6週間,通常の理学療法のみを実施した。前庭リハビリテーションはBalciら(2013)の方法を参考に対象者の能力に応じて座位,立位,Balance Pad(酒井医療社製)上立位で課題を行った。課題は固定された対象物を注視しながら反復的な頸部回旋運動によって前庭動眼反射の順応を促進する介入を20分実施した。評価項目は,前庭動眼反射の評価としてGaze Stabilization Test(GST),歩行能力評価として10m歩行,Timed Up and Go Test(TUG),Dynamic Gait Index(DGI)を計測し,ベースライン時,3週間後,6週間後に評価した。解析はベースライン時における年齢や発症期間などを含む各評価項目は対応のないt検定を行った。介入効果の比較には二元配置分散分析を行い,多重比較にはTukeyの検定を用いた。有意水準は5%とした。
【結果】
A群10名,B群11名が本研究を遂行した。ベースライン時の群間比較ではすべての評価項目に有意差を認めなかった。A群ではGSTと10m歩行,TUGにおいてベースライン時と3週間後および6週間後に有意な改善を認めた(Ps<0.05)が,B群は同時期での有意な改善を認めなかった。DGIに関して,A群ではベースライン時と3週間後に有意差を認めなかったものの改善傾向にあり(P=0.08),6週間後には有意差を認めた(P<0.05)。B群では有意差が見られなかった。
【結論】
A群はベースライン時から3週間後および6週間後で有意にGSTの改善を認めるとともに各歩行能力評価の向上を示し,B群では有意な改善が認められなかった。したがって,介助を必要としない比較的高い歩行能力を有している脳卒中患者に対して,前庭覚に焦点を当てた介入が前庭動眼反射の向上や様々な様式における歩行能力の長期的な改善が期待できる。
脳卒中患者は日常生活において方向転換や振り向き動作などの頸部運動を含む応用歩行で極端に姿勢制御機能が低下する。この一要因として,眼球運動や頸部回旋運動に伴う前庭覚の反射機能が影響している。特に,前庭動眼反射は頸部運動による視覚の安定に作用し,応用歩行と密接な関係が報告されている(Honaker,2013)。しかし,脳卒中患者の前庭覚への介入が歩行能力に及ぼす効果を調査した臨床研究は少ない。本研究の目的は回復期脳卒中患者に対する前庭リハビリテーションが歩行能力に与える影響を検討することである。
【方法】
対象は2014年3月から2015年9月までの回復期脳卒中患者とした。適応基準は初発の脳卒中患者であり,回復期リハ病棟に入院していること,指示理解が良好であること,歩行に介助が必要ないものとし,これらの条件を満たした対象者は21名であった。研究デザインはランダム化比較対照試験とし,対象者をExcelのRAND関数(Microsoft社製)を用いてA群とB群に無作為に分類した。両群の研究期間は6週間とした。A群は前庭リハビリテーションを3週間実施した後,通常の理学療法を3週間行うこととし,B群は6週間,通常の理学療法のみを実施した。前庭リハビリテーションはBalciら(2013)の方法を参考に対象者の能力に応じて座位,立位,Balance Pad(酒井医療社製)上立位で課題を行った。課題は固定された対象物を注視しながら反復的な頸部回旋運動によって前庭動眼反射の順応を促進する介入を20分実施した。評価項目は,前庭動眼反射の評価としてGaze Stabilization Test(GST),歩行能力評価として10m歩行,Timed Up and Go Test(TUG),Dynamic Gait Index(DGI)を計測し,ベースライン時,3週間後,6週間後に評価した。解析はベースライン時における年齢や発症期間などを含む各評価項目は対応のないt検定を行った。介入効果の比較には二元配置分散分析を行い,多重比較にはTukeyの検定を用いた。有意水準は5%とした。
【結果】
A群10名,B群11名が本研究を遂行した。ベースライン時の群間比較ではすべての評価項目に有意差を認めなかった。A群ではGSTと10m歩行,TUGにおいてベースライン時と3週間後および6週間後に有意な改善を認めた(Ps<0.05)が,B群は同時期での有意な改善を認めなかった。DGIに関して,A群ではベースライン時と3週間後に有意差を認めなかったものの改善傾向にあり(P=0.08),6週間後には有意差を認めた(P<0.05)。B群では有意差が見られなかった。
【結論】
A群はベースライン時から3週間後および6週間後で有意にGSTの改善を認めるとともに各歩行能力評価の向上を示し,B群では有意な改善が認められなかった。したがって,介助を必要としない比較的高い歩行能力を有している脳卒中患者に対して,前庭覚に焦点を当てた介入が前庭動眼反射の向上や様々な様式における歩行能力の長期的な改善が期待できる。