[O-NV-13-2] 脳卒中後の半側空間無視に対する直流前庭電気刺激が自己中心および物体中心の無視に与える影響
キーワード:半側空間無視, 直流前庭電気刺激, 脳卒中
【はじめに,目的】
半側空間無視(Unilateral spatial neglect:USN)はリハビリテーションにおける阻害因子である。USNはその病態から自己中心の無視や,物体中心の無視などが生じる。自己中心の無視の検査には抹消試験などがあり,物体中心の無視には線分二等分試験などがある。USNの治療は各種評価を行い,その病態に応じた治療を選択する必要がある。USNに対する治療の一つに直流前庭電気刺激(Galvanic vestibular stimulation:GVS)がある。GVSは,両側の乳様突起に貼付した電極から直流電流を通電し,前庭器官を刺激するものであり,USN患者に対して実施し,無視症状の改善が報告されている。しかしGVSがどのような無視症状に対して影響があるかを調査した報告は少ない。そこで本研究の目的は,GVSが自己中心および物体中心の無視に対してどのような影響があるかを調査することとした。
【方法】
対象は初回脳卒中発症後に左USNを呈した患者7名(年齢75.4±9.0歳;女性4名)とした。GVSには直流電流の連続波を用いた。刺激強度は皮膚感覚閾値の70から80%の皮膚感覚閾値下とした。GVSの刺激極性は左乳様突起を陰極,右を陽極とした左GVS条件,右乳様突起を陰極とした右GVS条件と電極設置を行うのみのsham条件の3条件を各症例に,48時間以上の間隔を空けて無作為の順番で実施した。刺激時間は20分間とした。評価は,Behavior Inattention Testの線分抹消試験および線分二等分試験を用いた。線分抹消試験は総抹消数を計測し,線分二等分試験は3本の線分を二等分した際の中心からの偏移距離を計測し,中央から右をプラス,左をマイナスとして合計した。評価は各刺激の前後に実施した。統計学的解析は,各条件間の刺激前の比較に,Friedman検定を用いた。各条件間の刺激後の比較は,刺激前から刺激後の変化量を算出し,Friedman検定を用い,多重比較にはDunnの検定を用いた。有意水準は5%とした。
【結果】
各評価における各条件の刺激前の間には有意差は認めなかった(線分抹消試験:左GVS 24.0±10.5個;右GVS 24.0±10.3個;sham 26.0±8.9個;p>0.05,線分二等分試験:左GVS 13.2±8.3 cm;右GVS 14.5±9.2 cm;sham 12.8±7.4 cm;p>0.05)。線分抹消試験では,各条件間の変化量に有意差を認め(左GVS 4.6±4.2個;右GVS 2.3±2.2個;sham:-0.9±2.4個;p=0.01),多重比較において左GVSとsham条件の変化量の間に有意差を認めた(p<0.05)。線分二等分試験においても同様に,各条件の間の変化量に有意差を認め(左GVS -4.7±4.7 cm;右GVS -1.9±1.9 cm;sham -0.7±1.3 cm;p=0.04),多重比較において左GVSとsham条件の間に有意差を認めた(p<0.05)。
【結論】
USN患者に対して,左を陰極としたGVSを行うことで,自己中心および物体中心のいずれの無視症状も即時的に軽減できる可能性がある。
半側空間無視(Unilateral spatial neglect:USN)はリハビリテーションにおける阻害因子である。USNはその病態から自己中心の無視や,物体中心の無視などが生じる。自己中心の無視の検査には抹消試験などがあり,物体中心の無視には線分二等分試験などがある。USNの治療は各種評価を行い,その病態に応じた治療を選択する必要がある。USNに対する治療の一つに直流前庭電気刺激(Galvanic vestibular stimulation:GVS)がある。GVSは,両側の乳様突起に貼付した電極から直流電流を通電し,前庭器官を刺激するものであり,USN患者に対して実施し,無視症状の改善が報告されている。しかしGVSがどのような無視症状に対して影響があるかを調査した報告は少ない。そこで本研究の目的は,GVSが自己中心および物体中心の無視に対してどのような影響があるかを調査することとした。
【方法】
対象は初回脳卒中発症後に左USNを呈した患者7名(年齢75.4±9.0歳;女性4名)とした。GVSには直流電流の連続波を用いた。刺激強度は皮膚感覚閾値の70から80%の皮膚感覚閾値下とした。GVSの刺激極性は左乳様突起を陰極,右を陽極とした左GVS条件,右乳様突起を陰極とした右GVS条件と電極設置を行うのみのsham条件の3条件を各症例に,48時間以上の間隔を空けて無作為の順番で実施した。刺激時間は20分間とした。評価は,Behavior Inattention Testの線分抹消試験および線分二等分試験を用いた。線分抹消試験は総抹消数を計測し,線分二等分試験は3本の線分を二等分した際の中心からの偏移距離を計測し,中央から右をプラス,左をマイナスとして合計した。評価は各刺激の前後に実施した。統計学的解析は,各条件間の刺激前の比較に,Friedman検定を用いた。各条件間の刺激後の比較は,刺激前から刺激後の変化量を算出し,Friedman検定を用い,多重比較にはDunnの検定を用いた。有意水準は5%とした。
【結果】
各評価における各条件の刺激前の間には有意差は認めなかった(線分抹消試験:左GVS 24.0±10.5個;右GVS 24.0±10.3個;sham 26.0±8.9個;p>0.05,線分二等分試験:左GVS 13.2±8.3 cm;右GVS 14.5±9.2 cm;sham 12.8±7.4 cm;p>0.05)。線分抹消試験では,各条件間の変化量に有意差を認め(左GVS 4.6±4.2個;右GVS 2.3±2.2個;sham:-0.9±2.4個;p=0.01),多重比較において左GVSとsham条件の変化量の間に有意差を認めた(p<0.05)。線分二等分試験においても同様に,各条件の間の変化量に有意差を認め(左GVS -4.7±4.7 cm;右GVS -1.9±1.9 cm;sham -0.7±1.3 cm;p=0.04),多重比較において左GVSとsham条件の間に有意差を認めた(p<0.05)。
【結論】
USN患者に対して,左を陰極としたGVSを行うことで,自己中心および物体中心のいずれの無視症状も即時的に軽減できる可能性がある。